「ふっ!ん〜〜〜〜〜っ!…さむひっ」
小鳥は寝覚ましに大きく伸びをしたが不意に冷たい風に吹かれ背中を丸めた。

「本当に大丈夫ですか?」
プロデューサーは訊ねた。

夜の繁華街を二人は歩いていた。

飲み会の場を後にして寒気に晒された小鳥が目を覚ますと肩を担がれるようにしていた小鳥は自分で歩き出した。

「平気ですよ、酔ってる訳じゃないですから♪」
自分でそう言いながらも少し上機嫌な事を小鳥は実感していた。

「それならいいんですけど…」
プロデューサーが心配そうに見つめていた。

「プロデューサーさん、ちゃんと飲めました?あまり飲めてないんじゃないですか♪」
何が嬉しいのかクスクスと微笑みながら小鳥は隣を歩いていた。

「ちゃんと飲んでましたよ、顔に出ないだけで」
そう答えながら小鳥がちゃんと歩いているのを見てプロデューサーは一安心した。

「ほんとかなぁ?あ、そうだ」
小鳥は何かを思いついた様に呟くとテテッとプロデューサーの前に歩きクルリと振り返った。

「よろしければ少しだけ飲みなおしませんか?」
笑顔で小鳥が言った。

「それは、構いませんけど。音無さん終電とかは…」

「まだまだ時間はありますよっ。近くでいいお店知ってるんです、いきましょっ♪」
言い終えると小鳥は踵を返して嬉しそうに歩き出した。

「音無さんあまり飲みすぎないで下さいね…」
内心ハラハラしながらプロデューサーは念を押した。

「はい、寝ない様にします♪」

小鳥が連れて来た先は、だるき屋から少し離れた場所にある小洒落た感じの小さなショットバーだった。

隠れた場所にこじんまりと構えたこのバーはその立地の所為か時間帯の所為か小鳥が行く時は大概他の客が見当たらない。

そんな”隠れ家”的なバーで小鳥はたまにお酒を楽しんで帰る事があった。

先行した小鳥がカウンター席に腰掛けるとマスターが軽く挨拶をした。

「お久しぶりです♪」
小鳥が笑顔で声を掛ける。

マスターはちらりと隣に座るプロデューサーを見ると会釈をした。

「お連れ様がいらっしゃるんですね」

「新しくいらした方なんですよー」

「お似合いですよ」
マスターがにこりと微笑むと小鳥は照れを隠せなかった。

「やだな、からかわないで下さいよぉ♪」

「ご注文はどうしますか?」
言いながらマスターはナッツの乗った小さなプレートを出した。

「私は”いつもの”カクテルで、プロデューサーさんは?」
小鳥が隣を見るとプロデューサーは少し考えるように並んでいるボトルを見つめていた。

射抜く様な考えている時の視線がボトルに向けられていた。

「…」

「プロデューサーさん?」

「え?」
驚いた様にプロデューサーが振り向く。

「注文は…私決めちゃいますよ?フフッ♪」
悪戯っぽく小鳥が笑う。

「それでも構いませんよ」
と小鳥の冗談をプロデューサーはにやりと笑って返した。

「く、やるようになりましたね…じゃ強そうなのにしちゃお。それで!」
小鳥は薄褐色の平たい瓶を指差した。

「ウイスキーですか…」

「スコッチですか?」
マスターが聞くと聞き覚えのある名称に小鳥は満足そうに頷いた。

小鳥の記憶ではかなり強いお酒と言うイメージが残っている。

「飲み方はどうされます?」
初めて聞かれる質問に小鳥は混乱しながらも思い付く単語を記憶の中から探していた。

「ロックで!」
それっぽい言葉で小鳥が言うとマスターは頷いた。

小鳥がほっと胸を撫で下ろすとプロデューサーが口を開いた。

「じゃあ、マリアージュでチョコもあったら下さい」
マスターが返事をする隣で小鳥はぽかんとしていた。

「まりあーじゅ?」
小鳥が不思議そうにマスターに訊ねるとマスターは小さく笑った。

「お連れ様の方がバーにはお詳しいようで」
それだけ言ってマスターはお酒の準備を始めた。

「マリアージュってなんですか?」
小鳥は気になってプロデューサーに訊ねた。

「良い組み合わせって言う意味で使われますね、バーでは」

「な、なるほど」

程なくしてマスターが注文されたものを持ってやって来た。

「音無さんが注文した”いつもの”やつって?」
小鳥が手にした薄紅色の飲み物を見てプロデューサーが訊ねた。

「私、お酒は弱いのでマスターに作ってもらったんです。私のカクテル♪」
小鳥は嬉しそうにグラスを鳴らした。

「確かカシスとピーチのリキュール?を少し入れてウーロン茶でアップって言いましたっけ?」
小鳥がマスターに訊ねるとマスターは微笑みながら「そうですよ」と答えた。

「すごく飲みやすいんですよ、アルコールも少ないし♪」

「それなら安心です」
小鳥の言葉を聞いてプロデューサーは微笑んだ。

小さくグラスを合わせ乾杯する。

プロデューサーがゴクリとウイスキーを喉に通した。

その仕草を小鳥は見つめていた。

(やっぱりこの人は私より大人なんだな…)
こう言う所に来ても落ち着いていてある程度の知識もあると言う事に小鳥は素直に感心していた。

この場においても任せておける事に安心感も覚えていた。

店の雰囲気の所為か先の飲み会での高揚感も少し落ち着いている。

それでも二人きりで居ると言う事に嬉しさも恥ずかしさも感じていた。

小鳥にとって心地の良い静かな雰囲気が流れていた。

小鳥は隣で飲んでいるプロデューサーを見つめていた。

整った顔立ちと落ち着いた雰囲気が小鳥の心を惹き付けていた。

じっと見つめているとプロデューサーは目を細めたり戻したりしている事に気付いた。

「プロデューサーさん」
小鳥が声を掛けるとプロデューサーは元の穏やかな表情に戻った。

「どうしました?」

「今、何か考え事されてました?」
小鳥の言葉にプロデューサーは怪訝そうに眉を寄せた。

「何故です?」

「考え事してる時のプロデューサーさん、顔をしかめてますよ」

「え?」

「きっと、もう癖になってしまったんですね」
そう言うと小鳥は少し寂しそうに視線を落とし手に持っているグラスを見つめた。

「考える事、思う事、嫌な事、辛い事…沢山あるから。知らない内にしかめ面になってしまうんでしょうけど」

「…」

「でも、私は…」
いつもの笑顔で小鳥はプロデューサーを見つめた。

「笑顔のプロデューサーさんの方が、好きですよ。フフッ♪」

「あ…」

「優しい顔で居られれば乗り越えた時に、もっと素敵な笑顔になると思うんです」
プロデューサーは小鳥の言葉を押し黙って聞いていた。

「…」

「すぐには無理でも少しずつ少しずつ、慣らしていけばきっと…」

「…」

「自分の事そっちのけで頑張ってるプロデューサーさんを、私は知ってますから…」
そこまで言うと小鳥は急に照れ臭そうに話を誤魔化した。

「あは、は…。何か偉そうな事言ってしまって…やっぱり酔ってるのかな…?」
小鳥自身も驚いていた。

自然な告白だった。

何も考えず息をする様な当たり前の事の様に口にしていた。

好きと言う言葉を…

今頃になって気恥ずかしさから胸が高鳴り始める。

火照って来た頬が紅く染まっていく。

小鳥はそれを冷ますかの様にカクテルを口に運んだ。

「ごめんなさい…」
小鳥が呟く様に言うとプロデューサーは口を開いた。

「音無さん」
反射的にビクッと小鳥は体を震わせた。

「…はい」

「ありがとうございます」
プロデューサーは口元を上げた。

「え?」

「音無さんの今の言葉、心にとどめておきます」
言い終えたプロデューサーの笑顔は小鳥が好きな優しい時の顔だった。

それを見て小鳥も微笑み返す。

「はい。いつかそうなってくれると私も嬉しいです♪」
そんな何気ない小鳥の一言がプロデューサーの胸にも響いていた。

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