「もう一回ちゃんと探してみよう。」

とりあえず間近の3−Gから戸を開けていく。

ガラララララッ
誰も居ない。

同じように3−F、3−Eと見てみたが人がいる気配は無い。
ふと気になってベランダに出てみたが、やはり人の気配は無い。
有るのは、濃紺と橙色に染まった空と幾つかの見え始めた、星々。
それと少し大きめの月。
「あぁ、今日は満月なんだなぁ。」
満月を見て思い出すと言えば高校生の癖に亮一が月見だとか言って酒だの何だの持ってきて
学校で騒いだこと位だけど今考えるとひどく滑稽な気がする。
「さて、今は感傷に耽ってる場合じゃないな。」

ベランダから教室に戻ろうとした時。
不意に視界を塞がれた。
「なっ!?」
「だぁれだぁ〜?」
「・・・・。」
一気に拍子抜けする。
こんな時にまさか「だぁれだぁ〜?」をされるとは思わなかったからだ。
「さぁ、私はぁ〜誰でしょぉ〜?」
視界を塞いだ手を触る。
小さな手、女の子にしては指の付け根に蛸がある、それに加えてこの間延びした喋り方。

答えは一つだ。
「瑠璃ちゃんだろ?」
そう言って振り返る。
「何で解るんですかぁ〜?」
彼女、瑠璃ちゃんはそう言うとむ〜っと眉に皺を寄せる。
「この学園にそんな喋り方の子は瑠璃ちゃんしか居ないよ。」
「ん〜、そんなに私の喋り方ってぇ〜特徴あるんですかぁ〜?」
「かなりね。」
「む〜。」
瑠璃ちゃんはまたしても真剣に考えている。
そんなに意外なのだろうか・・・?

彼女は、中等部の一年生で剣道部としても俺と亮一の後輩だ。
マイペースと言えばいいのか常に人と比べると時間が2倍くらい遅く流れてるような雰囲気を持った女の子なのだが、剣道の腕は確かである。
ただし、彼女の場合狙っているのではなく「なんとな〜く、ここかなぁって思ったら〜当たっちゃいました〜。」
で中等部最強を誇るのだから相手は堪ったもんじゃない。
女の勘?否、既に第六感の領域である。

「それよりどうして俺だって解ったの?まだ夕陽あるとは言えそんなに遠くからじゃ確認出来ないと思うんだけどな。」
「あはっ、この学校で木刀を持って歩いてる可能性がある人はぁ、せんぱいか甘糟せんぱいだけですよぉ。」
「そ・・・そうなんだ。」
「はい〜。」
そう言うと彼女は無邪気に笑った。
「ま・・・いいや。とりあえず一緒に行こう。
詳しい事情は後で話すとして東階段で亮一が待ってる。」
「甘糟せんぱいですかぁ〜っ。わぁい♪」

瑠璃ちゃんの手を取って教室を抜け、東階段に向かう。
亮一は壁に寄りかかりながらタバコをくゆらしていた。
「おう、瑠璃ちゃんじゃん。」
「あ〜まか〜すせ〜んぱ〜い。」
そう言いながら瑠璃ちゃんはふらふらと亮一の方に歩いて行ってばふっと抱きついた。
「んふ〜。甘糟せんぱ〜い♪」
「よしよし。瑠璃ちゃん元気にしてたか?」
瑠璃ちゃんの頭を撫でながら亮一は言った。
「はい〜。瑠璃はいつでも元気ですよ〜。甘糟せんぱ〜い、スリスリ♪」
瑠璃ちゃんは亮一にスリスリしてる。

亮一とは随分仲がいい。
一緒に遊びに行くことも良くあるらしい。
本人らはそうは言わないが間違いなく恋人同士だろう。
一度、亮一を冷やかした事があったがどもったり、赤面するだけで結局そうだとは言わなかった。
でも、あのイチャつき様・・・。
二人に目をやる。
「ふにゃあん♪」
「おーしごろごろごろごろ。」
「ゴロゴロゴロゴロ♪」

ふっ。あんなにひっついて

…羨ましい。

違う違う!
「オホンッ!」
わざとらしく咳払いをする。
が、二人が離れる様子は全く無い。
「あの、瑠璃ちゃん。…ちょっといいかな?」
瑠璃ちゃんがこっちを向く。
「ち、ちょっと座ろうか?亮一も座れよ。」
「おうおう。」
「はい〜。」

ちょこんと瑠璃ちゃんが座る。
「でだ。瑠璃ちゃんは何でここにいるの?」
「ほえ?」
と小首を傾げる。
「ん〜っ。質問がアバウトだな。さっきの死体見たでしょ?あんなのが居るのに気づかなかった?」
「はぁ〜。気づきませんでしたぁ〜。」
「…。あの今日一日の出来事を話してくれる?」
「えぇと〜。今朝は〜朝練に寝坊してしまいまして〜そのまま教室に行ったんですぅ〜。」
「ふむふむ。」

「そしたら〜だ〜れも来ないんですよぉ〜。」
「なるほどね。」
「それで〜ベランダで本を読んでたんですねぇ〜。そしたら気持ちよくて〜ついそのままウトウトしてしまいましてぇ〜。」
「うんうん。」
「はっ〜と起きたら〜夕方だったんですねぇ〜。それで〜夕焼けを見ていたら〜とても綺麗だったんですぅ〜。」
「それで?」
「それで〜なんとな〜く見ていたら甘糟せんぱいの声が聞こえてきて〜。それで、出てきましたぁ〜。」

でたか、「なんとな〜く」。

「つまりは、瑠璃ちゃん的には何も変わらないわけだ。」と、亮一が口を挟む。
「はい〜。瑠璃的には〜何も変わりませんよぉ〜。」
「でもちょっと待って。瑠璃ちゃん1年でしょ?何でこの階に居るの?」
「なんとな〜く、夕焼けがもっと綺麗に見えるかな〜と思いまして〜上がって来ちゃいましたぁ〜。」
てへっと小さい舌を出す。
「なるほど、瑠璃ちゃんはソレを知らないわけだ…。」

「ソレって何ですかぁ〜?」
あれって俺と亮一はソレの死体を指差した。
「はぁ、あれって人じゃないんですねぇ〜。」
「…・」
この子はある意味物凄く強いんじゃないだろうか・・。
「人じゃ無いものなら珊瑚さんが詳しいかも知れませんよぉ〜。」
ポンと手を叩く。
「珊瑚(さんご)?って誰?」
「わたしの〜きょうだいですぅ〜。」
手を合わせて指を交差させる。
「で…。その兄妹は何で詳しいの?」

「異形って言うんですかねぇ〜。そういうものの研究をしてるみたいですよぉ〜。」
「へぇ、そいつは良い事聞いたな。で、お兄さんは何処に居るか解るの?」
「おにいさんて誰ですかぁ〜?」
「え?瑠璃ちゃんの[兄妹]でしょ?」
「はい〜。私の弟ですぅ〜。」
「お…弟ぉ!?」
亮一と声がハモる。
亮一も知らなかったのか…。

「はい〜。今年で9歳になりますぅ〜。」
にっこり笑う。
「小3か…」
これは、あまり期待できないな…。
異形は異形でもきっと変身怪獣とかそう言う類
だろう…。
でも、聞いたからには助けなくちゃ行けないな。
「そっか。弟がいるならちゃっちゃと助けないかんわなぁ。」
亮一が立ち上がりタバコに火をつける。
「そうだな。それが、先決だな。急がないと…。」
言おうとしたときクイクイッと袖を引っ張られた。

「どうしたの?瑠璃ちゃん。」
「あのぉ、お願いなんですけど〜私の眼鏡捜してもらえませんか〜?」
「眼鏡?」
そう言えば何か違うと思ったら今日の瑠璃ちゃんは眼鏡をしてない。
「はい〜。一年の教室に置いて来ちゃったんですぅ〜。」
「なるほどね、通り道だし捜そうか。」
「はい〜。ありがとうですぅ〜。」
「じゃあ、行くよ。亮一、瑠璃ちゃん任せた。」
「おうおう、瑠璃ちゃん離れんなよー。ケラケラ。」
「はい〜。スリスリ♪」

くっつきすぎだろ…。

とりあえず二階に向かって俺達は歩き出した。

二階は中等部の教室2−A〜B、1−A〜Bと理科室、図書室がある。
一年に年は少ないのだが3年になると何故か転入する生徒が多いのはうちがそれなりに有名な進学校だからだろうか…?
とりあえず、前回同様大声で呼んでみる。
大きく息を吸う。
「おおーい!誰か居ないかぁっ!」
返事は無い。
「誰も居ないのかな?」
じゃあ

もう一度叫ぶ。 
先を急ぐ。

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