「やっぱりもう少し待ってみよう。」
「ん、お前がそう言うならかまわんよ。タバコも吸えるし。ケラケラ」
そう言うと亮一は壁に寄りかかってタバコに火をつけた。
「座らないのか?」
ふぃーっと紫煙を吹きながら亮一は「ケツがいてえ。」とだけ言った。

何分経っただろうか。

いい加減こっちも尻が痛くなって来た頃。

沈黙は破られた。

ぺた…ぺた…ぺた…。

さっきとは微妙に音が違う。
さっきよりも重いと言うか力強いと言うか。

ぺた…ぺた…ぺた…。

段々と近づいてきている。

俺も、亮一も音のする方を向いている。
亮一に関しては眼が既に戦闘モードだ。


ぺた…ぺた…ぺた…。


まだ遠い。姿は見えない。


ぺた…ぺた…ぺた…。



緊張が走る。

唾を飲み込む音さえ聴こえてしまいそうな静けさ。


聞こえるのはその足音だけ…。

ぺた…ぺた…ぺた…ゴンっ。

「…・。」
「…・。」


ゴンっ?
俺と亮一はお互い今の音を確認しあった。
ソレが何かにぶつかっただけかも知れない。

カサカサッ…ぺた…ぺた…ぺた…。

唾を飲み込む。

ぺた…ぺた…ぺた…ビターンッ!

「…。」
「…。」


誰か、コケた?

「あいたたたっ!ん〜なんですかねぇ〜。こんな所に〜。」
随分間の抜けた声。
亮一を見るとぽかんと口を開いて咥えてたタバコが唇にぶら下がっている。
ソレの死体に眼を凝らす。
うっすらと女の子らしき影が見える。
女の子はカサカサと服を直し、壁伝いに歩いてくる。
「ん〜。メガネが無いと何も見えませんねぇ〜。」
そんな独り言が聞こえてくる。

「あっ!?」

俺と亮一は同時に声をあげた。
この声、間延びした喋り方の人物は
この学校にも一人しかいない。
「ん〜。そこにだれかいるんですかぁ〜?」
こっちからは既に確認できている。
「おうこっちこっち。瑠璃ちゃん。」
「あぁ、その声は甘糟せんぱい〜♪」
にっこり笑って葵 瑠璃ちゃんは走りよってくる。

俺の方に…。

「あはっ♪捕まえましたよ〜、甘糟せんぱ〜い。」
「あの、瑠璃ちゃん…?」
「はい〜♪」
「亮一はあっちね…。」
俺は亮一を指差した。
瑠璃ちゃんは鼻がくっつく位顔を近づけて眼を凝らしている。
「あやや〜。椿せんぱいでしたか〜。失礼しました〜。」
てへっと舌を出すとふらふらと亮一の方に歩いて行ってばふっと抱きついた。

「今度こそ捕まえましたよ〜。」
「よしよし。瑠璃ちゃん元気にしてたか?」
瑠璃ちゃんの頭を撫でながら亮一は言った。
「はい〜。瑠璃はいつでも元気ですよ〜。甘糟せんぱ〜い、スリスリ♪」
瑠璃ちゃんは亮一にスリスリしてる。
彼女は、中等部の一年生で剣道部としても俺と亮一の後輩だ。
マイペースと言えばいいのか常に人と比べると時間が2倍くらい遅く流れてるような雰囲気を持った女の子なのだが、剣道の腕は確かである。
ただし、彼女の場合狙っているのではなく「なんとな〜く」なのだ。

「なんとな〜く、ここかなぁって思ったら〜当たっちゃいました〜。」
で中等部最強を誇るのだから相手は堪ったもんじゃない。
女の勘?否、既に第六感の領域である。
亮一とは仲が良く、一緒に遊びに行くこともしばしばあるらしい。
本人らはそうとは言わないが、間違いなく恋人同士だろう。
だってアレを見れば…。
二人に目をやる。
「ふにゃあん♪」
「おーしごろごろごろごろ。」
「ゴロゴロゴロゴロ♪」

ふっ。あんなにひっついて

…羨ましい。

違う違う!
「オホンッ!」
わざとらしく咳払いをする。
が、二人が離れる様子は全く無い。
「あの、瑠璃ちゃん。…ちょっといいかな?」
瑠璃ちゃんがこっちを向く。
「ち、ちょっと座ろうか?亮一も座れよ。」
「おうおう。」
「はい〜。」

ちょこんと瑠璃ちゃんが座る。
「でだ。瑠璃ちゃんは何でここにいるの?」
「ほえ?」
と小首を傾げる。
「ん〜っ。質問がアバウトだな。さっきの死体見たでしょ?あんなのが居るのに気づかなかった?」
「はぁ〜。気づきませんでしたぁ〜。」
「…。あの今日一日の出来事を話してくれる?」
「えぇと〜。今朝は〜朝練に寝坊してしまいまして〜そのまま教室に行ったんですぅ〜。」
「ふむふむ。」

「そしたら〜だ〜れも来ないんですよぉ〜。」
「なるほどね。」
「それで〜ベランダで本を読んでたんですねぇ〜。そしたら気持ちよくて〜ついそのままウトウトしてしまいましてぇ〜。」
「うんうん。」
「はっ〜と起きたら〜夕方だったんですねぇ〜。それで〜夕焼けを見ていたら〜とても綺麗だったんですぅ〜。」
「それで?」
「それで〜なんとな〜く見ていたら甘糟せんぱいの声が聞こえてきて〜。それで、出てきましたぁ〜。」

でたか、「なんとな〜く」。

「つまりは、瑠璃ちゃん的には何も変わらないわけだ。」と、亮一が口を挟む。
「はい〜。瑠璃的には〜何も変わりませんよぉ〜。」
「でもちょっと待って。瑠璃ちゃん1年でしょ?何でこの階に居るの?」
「なんとな〜く、夕焼けがもっと綺麗に見えるかな〜と思いまして〜上がって来ちゃいましたぁ〜。」
てへっと小さい舌を出す。
「なるほど、瑠璃ちゃんはソレを知らないわけだ…。」

「ソレって何ですかぁ〜?」
あれって俺と亮一はソレの死体を指差した。
「はぁ、あれって人じゃないんですねぇ〜。」
「…・」
この子はある意味物凄く強いんじゃないだろうか・・。
「人じゃ無いものなら珊瑚さんが詳しいかも知れませんよぉ〜。」
ポンと手を叩く。
「珊瑚(さんご)?って誰?」
「わたしの〜きょうだいですぅ〜。」
手を合わせて指を交差させる。
「で…。その兄妹は何で詳しいの?」

「異形って言うんですかねぇ〜。そういうものの研究をしてるみたいですよぉ〜。」
「へぇ、そいつは良い事聞いたな。で、お兄さんは何処に居るか解るの?」
「おにいさんて誰ですかぁ〜?」
「え?瑠璃ちゃんの[兄妹]でしょ?」
「はい〜。私の弟ですぅ〜。」
「お…弟ぉ!?」
亮一と声がハモる。
亮一も知らなかったのか…。

「はい〜。今年で9歳になりますぅ〜。」
にっこり笑う。
「小3か…」
これは、あまり期待できないな…。
異形は異形でもきっと変身怪獣とかそう言う類
だろう…。
でも、聞いたからには助けなくちゃ行けないな。
「そっか。弟がいるならちゃっちゃと助けないかんわなぁ。」
亮一が立ち上がりタバコに火をつける。
「そうだな。それが、先決だな。急がないと…。」
言おうとしたときクイクイッと袖を引っ張られた。

「どうしたの?瑠璃ちゃん。」
「あのぉ、お願いなんですけど〜私の眼鏡捜してもらえませんか〜?」
「眼鏡?」
そう言えば何か違うと思ったら今日の瑠璃ちゃんは眼鏡をしてない。
「はい〜。一年の教室に置いて来ちゃったんですぅ〜。」
「なるほどね、通り道だし捜そうか。」
「はい〜。ありがとうですぅ〜。」
「じゃあ、行くよ。亮一、瑠璃ちゃん任せた。」
「おうおう、瑠璃ちゃん離れんなよー。ケラケラ。」
「はい〜。スリスリ♪」

くっつきすぎだろ…。

とりあえず二階に向かって俺達は歩き出した。

二階は中等部の教室2−A〜C、1−A〜Cと理科室、図書室がある。
一年に年は少ないのだが3年になると何故か転入する生徒が多いのはうちがそれなりに有名な進学校だからだろうか…?
とりあえず、前回同様大声で呼んでみる。
大きく息を吸う。
「おおーい!誰か居ないかぁっ!」
返事は無い。
「誰も居ないのかな?」
じゃあ

もう一度叫ぶ。 
先を急ぐ。

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