2007年 8月 △△日

ボクはヤな女だ・・・。
今まで何も言わずにプロデューサーに従ってそれで成功して来たって言うのに…。
ランクが上がって生意気になっちゃったのかな…。
でも、もう仕方ない。
強がりだとしても、生意気でも言ってしまった事に責任は取らなきゃ!
絶対、何としてもやり遂げてやるんだ!
早く一人前になって、プロデューサーと同じ立場で…



以前の日記から3日後

「765プロダクションのイベント…ですか?」
社長に呼び出された真とプロデューサーは同時に声を発した。

「そうだ!急遽決まってね。この夏の最後にファンに送る大イベントだぞ!我が765プロの全てをファンにぶつける765プロだけのファン感謝祭だ!」
やけに乗り気な社長の言葉を聞きつつプロデューサーが問いかける。

「イベントをやるのは賛成なのですが、それはそれとして何故我々がここに呼ばれたのでしょうか?」
社長は一つ大きく咳払いをして話しを続けた。

「オホン!…そうだった本題に戻る事にしよう。そのイベントは今年我が765プロのイベントで最大級の規模で行われるわけなのだが」
真は黙って話を聞いていた。

「今、最も勢いのある真君にトリを任せたいと思うのだがどうかね?」

「トリをですかあっ!?」
再び真とプロデューサーは同時に声を上げる。

「うむ、これでまたファン数が増える事は間違いない。それなら最後に印象付けて置けばバッチリだと思わんかね?」
真が隣で目を輝かせている真に対してプロデューサーは考え込んでいた。

「どうかね?真君」

「やります!やります!やらせてください!」

「そうかそうか、君はどうかね?本人はやる気なようだが…」
プロデューサーは口に当てていた手を下げると一呼吸してから話し始めた。

「正直に申し上げて反対です」

「え?」

「確かに勢いはあります。ですが真はまだ足の捻挫も完治しておりません」

「むぅ…」
社長が深く唸り声を上げる。

「765プロ所属のアイドル達は真も含めトップアイドルだけと言っても過言ではありません」
社長も真も何も言わずにプロデューサーの言葉を聞き入っていた。

「万全な状態ならまだしもこの状態でのトリは…他の経験あるアイドルを推薦します」

「でも、でももうこんなチャンス二度と無いですよ!ボクはやりたいです!足もだいぶ良くなってきてるし!」
真は右足で何度も地面を踏んで見せた。

「だめだ!」

「なんでですか!捻挫してるからですか!?」

「それだけじゃない!これだけのイベントのトリだぞ!他のアイドル達の看板も背負うんだ。中にはSランクだっている、失敗は絶対に許されない」

「大丈夫ですよ!やって見せます!やってみたいんです!」
真の言葉にプロデューサーは依然として首を縦には振らなかった。

…解ってくれないならボク一人でやります!」
そう言うと真は社長室を後にした。

「むうぅ、どうしても出たいみたいだねぇ」
社長がプロデューサーに声を掛ける。

「説得は難しそうですね…っ!?」
プロデューサーは立ち上がろうとしてバランスを崩してしまった。

「大丈夫かね?」
直ぐ近くにあったデスクに寄りかかり体制を整える。

「あはは、ちょっと疲れてるだけで大丈夫ですよ」
苦笑いしながらプロデューサーは応えた。

「今日はこの辺で失礼致します」
お辞儀をするとプロデューサーも部屋を後にした。



イベント当日

結果的に社長が本人の意見を尊重したこともあって真はトリを務める事になった。

結局、今日の今日までプロデューサーとは一度も会っていなかった。

イベントまでの間、真はリハビリも兼ねてダンスレッスンを重ねていた。

真の右足はあまり痛みが走ることも無く、順調に回復に向かっていた。

リハーサルも問題なく終えて今日と言う日を迎えた。

「うっわぁーーーーっ!すごいなーっ!」
会場であるドームは溢れかえらんばかりの人でごった返していた。

それもそのはず。

765プロを代表するトップアイドルの面々が大集合してのイベントなのだから。

Sランクの天海 春香のユニット<プリズム>、如月 千早、星井 美希の<ティアラ>
Aランクの秋月 律子、双海亜美、真美の<フィズ>、水瀬 伊織、萩原 雪歩、高槻 やよいの<ディア マイン>
Bランクの三浦 あずさの<ルージュ>、そして菊地 真の<フォルテ>

暫定ファン数一千万人級の大イベントのトリを任されると言うことは真にとってトップアイドルになる為の最大のチャンスだった。

「絶対成功させて見せるぞ!」
会場の様子を見つめながら真は決意を燃やしていた。


プロデューサーは真の心配をしながらもステージの最終確認をしていた。

遠目から見渡し確認して納得したように小さく頷いた。

「なんとか、なりそうだな…つっ!」
疲れがたまっている所為なのかプロデューサーは体調があまりよくなかった。

(まずいな…こんな大事な時に…)
足元がおぼつかない様子で歩きながら関係者用の通路に戻る。

各アイドルの楽屋が並ぶ通路を越えて喫煙所に差し掛かった時、春香と美希にばったり出会った。

「あ…あの」

「なんですか?」
不意に声を掛けられたにも関わらず春香は笑顔で返事をした。

「<プリズム>の春香さんと<ティアラ>の美希さんだよね?」
確認の為にユニット名と名前を呼ぶと二人とも一度顔を見合わせたが直ぐに頷いた。

「そっか、俺は真のプロデューサーなんだけど…」
そう言って自分のIDを二人に見せると二人からようやく不安要素が取り除かれた。

「誰かとおもったよ〜♪変な人が入ってきちゃったのかなっておもったな♪」
美希があどけない笑顔を向ける。

「初めましてって、大丈夫ですか?顔色が悪いみたいですけど」
プロデューサーの顔をみて春香が声を掛ける。

「あはは、ちょっとね。こんなことプロデューサーが他のアイドルに頼むのはどうかと思うんだけど…少し話しを…聞いてもらいたいんだ」

「ええ、私に出来ることなら…」

「ミキもいいよっ♪」

「有難う…。真の事なんだけど…」
プロデューサーは今回の企画を春香と美希に詳しく話して聞かせた。

二人ともプロデューサーと真の事を心配してか真剣に話を聞いていた。

「と言う事…なんだけどお願い…出来るかな…?」

「解りました、お手伝いします!」

「美希も了解したの♪ねぇ、これはハニーに話しても平気?あ、ハニーって言うのはミキのプロデューサーね」

「え…美希、どうして?」
春香が不思議そうに美希に問いかけた。

「だってミキ達同じステージに立つんだよ?裏で指示出せる人が一人でも居た方が安全でしょ?ミキ達だけじゃもしもの時に動けないし」

「そっか、それもそうだよねぇ?どうでしょうか?私と美希のプロデューサーだけでも話を通しておけば万が一の万が一にも絶対対応できます!」
二人はそうさせてくれと言わんばかりの瞳でプロデューサーに訴えた。

「うん…そうしてもらえると、助かるな」
この二人が信用しているプロデューサーなら安心して任せられる筈だと二人の目をみてプロデューサーはそう確信した。

と同時にプロデューサーとの信頼関係を羨ましくも思えた。

「ありがとうございます!…あ、プロデューサーさん!」
春香が自分の後ろを見て声を掛けたのでプロデューサーも振り返るとそこには自分と同い年位の男性が二人慌てた様子で走ってきていた。

「ハーニー♪」
美希は無邪気に手を振っている。

「春香!本番間近なのに居ないから心配したよ」
春香のプロデューサーは駆け寄るとプロデューサーを見て軽く会釈した。

「プロデューサーさん、丁度良かった!あの、真のプロデューサーさんが…」
春香と美希は今聞かされた話しをそれぞれのプロデューサーに話して聞かせた。

「うん、そう言うことなら勿論協力するよ!」
春香のプロデューサーが言う。

「我々が協力して仕事が出来るのは今日みたいな日だけですからね。今日のイベントはユニットよりもイベントの成功が最優先ですから!」
美希のプロデューサーも同意をしてくれた。

「有難うございます!恩にきます…っ」
不意にプロデューサーを眩暈が襲った。

(もう…限界かな…)
ガクッと膝から崩れ落ちて目の前に居る春香にプロデューサーは倒れ込んだ。

「え…ちょっ!プロデューサーさん!?プロデューサーさん!」
何が起きたのか解らず春香は倒れてきたプロデューサーを倒れない様に抱きかかえながら叫んでいた。

美希と春香のプロデューサーが肩を貸してプロデューサーを抱えると春香のプロデューサーは言葉を発した。

「ここは俺らに任せて早くステージに!」

「美希も春香ちゃんも頑張って!」
二人の言葉に春香も美希もステージに向かって走って行った。


ステージは既に開始直前の緊張感漂う雰囲気と熱気に包まれていた。

スポットライトが当たると大きな歓声が上がる。

ドームを揺るがすほどの大きな歓声響き渡った。

MCのフィズの二人がトークを始める。

「みんなー!今日は765プロダクションプレゼンツ 765ファン感謝祭に来てくれてどうもありがとーっ!」
律子が声を掛けると再び会場だどよめいた。

「今日のMCは<フィズ>の秋月 律子とーっ!」

「<フィズ>の双海 亜美がーっ、お届けするよ〜ん!」
所々二人を呼ぶ声が歓声に混じって聞こえる。

「じゃあ早速始めるよー!トップバッターはこの二人!世の男性諸君はずば抜けた歌唱力の持ち主!如月 千早の歌声とー!」

「中学生離れしたんっふっふ〜なナイスバデーの持ちぬし〜ぃ!星井 美希の<ティアラ>にメロメロなのさ〜っ!行ってみよーぅ!」
亜美が言い終えるとほぼ同時に”relations”のギターソロが流れ始める。

一際大きな歓声が会場を揺らすとその声は少し離れた場所に居た真の耳にも届いていた。

「これがSランクの歓声なのかな…すごいな…こんな歓声今まで聞いたことも無いよ」
その歓声を聞いた真は緊張の為か妙に落ち着かない気がしてその場を離れた。

「振り付けをもう1回確認しておかなきゃな!」
そう言うと真はリハーサルも兼ねて振り付けをなぞり始めた。

途中、緊急時に備える為の医療班と思われる医者と看護婦が近くを走り過ぎて行った。

「もう気絶しちゃった人とかが出たのかな…」
そんな事を言いつつも真は振り付けの確認を続けた。

真の居ないステージの袖で春香は律子と亜美を呼んで真のプロデューサーから聞いた話を言って聞かせた。

「なるほどね。そう言う事なのね…問題が無ければ良いけど」

「そうなった場合、なんか合図とかあるの〜〜?」

「何か話しがすんなり行き過ぎて拍子抜けしちゃったけど…私が何もしてなかったらそのまま、手で×とか作ってたらプランBって感じでどうかな?」
春香の言葉に律子が答える。

「私は春香が見える位置に居るけど、亜美にも伝えたいから…」
うーんと腕組をしながら律子は考えていた。

「MC中の会話でもしそのままなら「今回のイベントのラストを飾る〜」でプランBなら「今回のイベントの最後を飾る〜」って言うからちゃんと聞いておきなさいよ、亜美」

「わかったよ、律っちゃん♪んっふっふ〜なんか重要な作戦だねぇ♪」
亜美は楽しそうに微笑んだ。

「律子さん、亜美ありがとう。絶対成功させようね!」
春香の言葉に二人はウインクして親指を立てた。

「勿論!」
「もーっちろ〜ん!」


そうこうしてる内に早くもトリの真の出番が近づいて来た。

出番を終えた雪歩が真に声を掛ける。

「真ちゃん、出番が近いよ!」
既に衣装に着替えベンチに腰掛けていた真が雪歩に返事をする。

「うん!今行くよ!」

「がんばってね!真ちゃん!」
そう告げると雪歩はその場を後にした。

「よーし!」
両手で膝を勢いよく叩いて立ち上がろうとした時

「いっ……!」
真の右足首を鈍い痛みが走った。

「う…そだろ?さっきまでなんとも無かったのに!」
じわりじわりと伝わってくる痛みは紛れも無くついこの間まで感じていた痛みだった。

「こんな、直前に…」
痛みとプレッシャーの所為で冷たい汗が背中を伝っていく。

「くそっ!諦めるもんか!絶対諦めたりするもんか!」
真は急いで右足首を念のために持っていたテーピングでギチギチに固めると足をかばいながら控え室を後にした。

「真、遅いじゃないのよっ!」
ステージに着くや否や伊織が真を叱咤する。

「ごめんごめん」
気付かれないように歩きながら真がステージの袖にやってきた。

「真、大丈夫?」
春香が心配そうに聞く。

「うん、大丈夫だよ!」

「真さん、がんばってくださいねっ!」
やよいが声を掛ける。

「真ちゃん、トリ、よろしくおねがいねぇ」
そう言うとあずさはニッコリ微笑んだ。

「みんな、ありがとう!」
皆に礼を言って一歩踏み出そうとした時、嬉しさで右足をかばう事を忘れていた。

「痛っ…」
鈍い痛みが走ってそのまま動けなくなった。

「まことっ!」
春香が気付いて走り寄ってきた。

真の顔は痛みの所為か青ざめていた。

春香が律子に向けて腕で大きくで×を作る。

(プランBか…)
律子が了解の合図に眼鏡の位置を直した。

「真!自分の歌、最後の最後位は踊れるよね!?」
春香が真に確認する。

「ちょっと春香、真の様子を見て解らないの?」
伊織が春香に声を上げる。

「解ってるよ。解ってるから聞いてるの!イベントの成功はもう真に懸かってるの。踊れるよね?」
その言葉に真は痛みを堪えながら頷いた。

「大丈夫…だよ。最後の最後しか踊れないのは悔しいけど、それに全てが懸かってるなら…ボクやるよ!」
その言葉を聞いて春香は頷いた。

「じゃあこっちに来て。伊織も肩貸して!」
春香の言葉に不満そうに頬を膨らませながらも伊織は真の反対側の腕を抱え込んだ。

「なんで私がこんなことしなくちゃいけないのよー!」
真を担いでミニステージ乗せると春香は声を掛けた。

「すぐ始まるから、入るタイミングは1番と2番の間に変則的に間奏入れるからその時にね」
春香の言葉に真は焦っていた。

「え?でもこれでどうやって…」
説明を求める真に対して春香はそれでも話しを続けた。

「クレーンで吊って上から登場してステージまで運ぶから。登場までは全部アドリブでお願いね!」

「わ、わかったよ!行って来る!」
言い終えると真を乗せたミニステージが徐々に上に引っ張られて行った。

真が天上に向かって登っている頃、それを見上げる美希と春香のもとに美希のプロデューサーが駆け寄ってきた。

「ハニー…真クン、大丈夫かなぁ?」
美希が不安そうにプロデューサーにしがみつく。

「大丈夫だよ、きっと。ここまでは上手く行ってるんだし」
美希をなだめる様にプロデューサーは美希の頭を撫でながらクレーンの行方を見守っていた。

「うん、きっとうまくいくよね♪…あ、真クンのプロデューサーさんは?」

「命に別状は無いみたいだよ。医者の話だと過労な上に睡眠不足でまぁ精神的にきつくなったのがいっぱいいっぱいだったんだろうってさ」
その話しを隣で聞いていた春香がほぅっと胸を撫で下ろす。

「良かった…早く良くなると良いですね」
そう言う春香の頭に美希のプロデューサーはポンと手を置いた。

「きっと、春香ちゃん達に話したら安心したら眠くなっちゃったんだよ。ありがとうね。同じプロデューサーと礼を言うよ。撫でるのが俺で申し訳ないけど」
美希のプロデューサーのその言葉に春香は胸が温かな気持ちになっていくのを感じた。

「いいえ、とんでもない!きっと私のプロデューサーさんも立場が逆なら美希を撫でていたと思いますからっ」


ステージではフィズの二人が上手く話しを引っ張っていた。

「それでは!今回のイベントの最後を飾るー!今765プロで最も勢いのある期待の新星!」

「<フォルテ>の菊地 真で〜〜〜っ!【エージェント夜を往く】〜〜〜っ!」
会場が歓声に包まれる中ステージ上には妙な静けさが漂っていた。


シーン

「亜美亜美!大変!」

「どうしたの〜?律っちゃん」

「真が居ないんだって!」

「へぇそうなんだ…」

「へぇそうなんだって心配じゃないの?もう居なきゃいけない時間なんだよ?」

「しょうがないじゃんいないんだから。あ、そうだ!んっふっふ〜亜美イイコト考えちゃった〜!」

「またろくでもないことなんでしょ?」

「まこちんの歌、フィズで歌っちゃおうよ〜!」

「は?何言ってるのよ!」

「だってみんなをこのまま待たせておくわけには、いーかないっしょー!」

「ま、まぁ。それも…そうかもね…。やっちゃう?」

「やろー!やろー!じゃさっそく〜音楽すたーとぉーー!」

エージェント夜を往くの曲が流れ始めるとフィズの二人は曲に合わせて振り付けをなぞり始めた。

眠れない夜 この身を苛む煩悩
焦燥感 耐えられないなら
アンダーグラウンドのサービスを呼ぶの
どんな時も万全に応えられる

その名はエージェント
恋と欲望 もてあそぶ詐欺師

貴方に 委ねる 秘密の うちわけ
情熱 快楽の 解放 待ち望む
そうよ 乱れる悦びを

もっと 高めて果てなく 心の奥まで
貴方だけが使える テクニックで
溶かちつくちて
本能 渦巻く最中に 墜ちてくトキメキ
今宵だけの夢
踊るわ 激しく

もっと 高めて果てなく 心の奥まで
貴方だけが使える テクニックで
溶かしつくして
本能 渦巻く最中に 墜ちてくトキメキ
今宵だけの夢

踊るわ 激しく
望みの 限りに
燃やすわ 激しく

1番を歌い終えると間奏が入りステージは暗転する。

「ちょっとー!なんでフィズがボクの歌を歌ってるのさ〜!」
会場の何所からとも無く聞こえる真の声に会場はどよめいた。

「真、遅いのよ!て言うか何所に居るのよ?」

「律っちゃんあそこ!なんかあるよ!」
亜美が何も無いはずの空を指差すとそこにスポットライトが当てられた。

「みんなーっ!ボクはここだよーっ!」
吊り下げられたミニステージの上で真は衣装姿で観客に向けて大きく手を振っていた。

観客からは女性ファンの黄色い声が鳴り響いていた。

「じゃあ2番からいっくよーっ!ボクと一緒に歌ってねぇ!」

窓の濃藍 突き刺し流れる月光
漏れる空想 繋ぎ止めたいから
オーバードライブを 今は外さない
ほんの不安 一瞬に吹き飛ばして

誰にも話せない
隠してしまいたい
鍵穴を見せるわ
そして贖うの

ゆらめくペイシェント 懈怠の闇に呑み込まれる
操るエージェント 愛と幻想をすり替えるクラウン

もう一度願うの 愉悦のひととき
目交横切る 記憶が疼きだす
そうよ 狂える悦びを

もっと 染めてよ激しく 世界の色まで
誰も 真似のできない アーキテクトの
思うがままに
煽情 震える末路に はだかるときめき
全て浴びたいの この身の限りに

2回目の間奏が入る頃に真の乗ったミニステージは観客の上を一周してフィズの居るステージに着地した。

真も合流して同じように振り付けをなぞりだす。

もっと 高めて果てなく 心の奥まで
貴方だけが使える テクニックで
溶かしつくして
もっと 染めてよ激しく 世界の色まで
誰も 真似のできない アーキテクトの
思うがままに
本能 渦巻く最中に 墜ちてくトキメキ
今宵だけの夢

踊るわ 激しく
望みの 限りに
燃やすわ 激しく

歌い終えてステージが暗転に包まれると今回のイベントで最も大きな歓声が上がった。

ステージ上、全員でファンに対して深々と礼をすると今年最大級のイベント幕を閉じた。

結果的には大成功を掴んだと言える出来栄えだった。

ステージの裏でアイドルの面々は喜びを隠せない様子で歓喜の声を上げていた。

「まことさん、凄かったです〜!」

「いつの間にあんな仕掛けが出来てたのぉ?」
真はみんなにクレーンで吊ったミニステージの事を聞かれていた。

「いや、ボクも知らなかったんだよ。でも春香も人が悪いなぁ。こうなる事が決まってたのなら先に言ってくれればいいのに」
真の発言に春香、美希の事情を知る2人は驚いた。

「え…?」

「真…それは、違う…よ?」
春香の言葉を聞きもせずに真は続けた。

「違うって最初から用意してなかったらあんな大掛かりな機械はセッティング出来ないじゃないか、内容が変わったんなら教えて欲しかったな」
真の言葉を春香は黙って聞いていた。

「それにしてもプロデューサーを見かけないなぁ、でも結果的に成功だったのなら良かったよね!」
真の発言に耐え兼ねた美希が声を上げる。

「マコトッ!!」
美希の声とほぼ同時に春香の手が真の頬をピシャリとはたいていた。

「えっ…?」
驚いたのは真だけではなかった。

その場に居たほぼ全員が春香の行動に驚き隠せなかった。

周囲の目を気にも止めず春香は震える声で話し始めた。

「真…違うよ?これ全部手配してくれたの…真のプロデューサーさんだよ…?」
真ははたかれた頬を押さえながら春香の言葉に驚いていた。

「ぶったのは謝る…。でも…でもぉ、そんな言い方許せないよ…。真のプロデューサーさん…凄く真の事心配してたよ…」
話してる内に春香の中で悔しさが込み上げて来たのか徐々に怒気が溢れていった。

「一生懸命だったよ?真がどうしてもやりたいって言ったんでしょ?プロデューサーさんは…その意見すごく大事にしてたのっ!
 だから、真の足が大丈夫だったらそのままでって思ってたんだよ!?でももしダメで出られなくなるのは寂しいだろうからって
 きっと色んな所にお願いして用意してくれたのっ!」
真を睨むように見つめながらも春香の瞳からはポロポロと大粒の涙が溢れ出していた。

「現場にいられないかもしれないからって私なんかに頼んだの!自分の担当でもない子に…お願いしたの…」

「…」

「そんな風に言ったら…プロデューサーさん…可哀相だよ…」
そこまで言うと春香の涙はもう止まらなかった。

その顔を見ている真は動く事が出来なかった。

何所にも見当たらないプロデューサーが影で全てを手配していてくれたことなんて知らなかったから…。

そして春香がここまで言っているのに自分が自分のプロデューサーを信じ切れてなかった事に気付いたから…。

「春香、もういいよ。真クンも解ってる筈だから。行かせてあげよ?」
美希が春香と真の間に割って入った。

(行かせてあげるって…?)

「春香っ!」
美希しか見えてない筈の春香が何も返事をしない事に対して美希が声を上げる。

「いいよね?」
美希のその言葉に春香は目を伏せた。

「うん、行ってあげて」
小さく呟くと春香は楽屋に向かって歩いて行った。

美希が春香の代わりにその言葉を伝える。

「真クン、すぐに医務室に行ってあげて」
美希の言葉に真は不安を感じた。

「春香とミキにプロデューサーさんは真の事話してくれたの。でも、真プロデューサーさんその時に倒れちゃったの」

「…うそ?」
真の言葉に美希は首を振った。

「ホントだよ。死んじゃう様な病気じゃないみたいだから、大丈夫だよ。早く行って、成功したよって伝えてあげて?真クン」
美希の言葉を聞いても真は動けなかった。

「でも…でも春香が…」
言いかけた真の言葉を美希が制す。

「マコトッ!」
美希の声に真がビクッと体を震わせる。

「春香はいいの!ミキまで怒らせないで。先に真クンが謝らなきゃイケナイのはプロデューサーさんなの!だから行って!」
美希の言葉に真は頷いた。

「わかった…ごめん、行ってくるね!」
真は痛む右足をかばいながらも出来るだけ急いで医務室に向かった。


医務室に到着すると真は小さくノックをして静かにドアを開けた。

「失礼しま〜す」
中にはほんの数人分のベッドだけがキチンと並べられていた。

「あ…」
プロデューサーを見つけると真の胸がドクンと高鳴る。

真は静かに傍まで近づいて椅子に腰を掛けた。

プロデューサーは額にタオルを乗せてスースーと寝息を立てていた。

穏やかな寝顔を見て真は安堵の息を漏らす。

「プロデューサー…」
真はプロデューサーの手を取った。

チャリッと石と石が擦れる音がする。

「プロデューサー、イベント成功したよ」
そっとプロデューサーの胸に顔を埋める。

プロデューサーの匂いと聞こえる鼓動の音が真を安心させる。

「ごめん…なさい…。ボクの所為でいつも大変な思いさせちゃって…こんなになるまで頑張ってくれてるなんて…ボク、知らなかったよ」
話しかけてる内に徐々に涙が滲んできた。

「ホントに…ほんとに、ごめ…なさい…」
真は自己嫌悪に駆られてポロポロと涙を零しながらプロデューサーのシャツを小さく掴んだ。

「ボクは…ホントに馬鹿だ…プロデューサーばかりにつらい思いさせて…なのに…同じ立場に立ちたいなんて…」
不意に何かが真の髪をフワリと撫でた。

「んん…真、か…」
顔だけ起して眩しそうに目を開いて真の顔を確認するとプロデューサーは再び枕に頭を預けた。

そしてそのまま真の頭を撫でる。

「おかえり、真。ちゃんと、成功させたか?」
第一にイベントのトリの成否を確認をするプロデューサーに真の胸はチクリと痛んだ。

「うん…うん…成功だったよ」
その言葉を聞いてプロデューサーは満足そうに息を吐いた。

「はぁーそっか。なんだ、泣いてるのか?それだけの大成功だったんだな」
プロデューサーは満足そうに微笑んでいた。

「真…ごめんな?大事な時に傍に付いててやれなくて。色々困ったろ」
プロデューサーの言葉に真は胸の上で首を横に振った。

「ううん…プロデューサーのおかげで、成功したんだよ。ボクは…結局何も出来なかった…ごめんなさい…ごめ…なさい…」

「真」
プロデューサーが声を掛けると真は顔を上げた。

「Sランクまであと少し。一緒に、頑張っていこうな!」
プロデューサーが微笑みながらそう言うと真は更に強く顔を胸に押し付けた。

「うん!うん!ボクずっとプロデューサーについていくよ!」


プロデューサーズサイド

医務室で医者の診断を受けるプロデューサー。

「どうなんでしょう?急に倒れたんですけど…」
春香のプロデューサーが問うと医者は表情も変えずに応えた。

「命に問題は無いでしょう。恐らく、寝不足と精神疲労が重なって過労気味だったのでしょう」
その言葉に二人はほっと息を吐いた。

「少し安静にしてればすぐに良くなりますよ」

「そっかぁ、良かった…」
美希のプロデューサーはそう言うと腕時計を確認した。

「うわっ!こんな時間だ!」

「ほんとだ!急がなきゃ。じゃあ先生、後はお願いします!」
それだけ言い残すと二人は医務室を飛び出した。

「ええと、クレーンの確認とミニステージの確認」

「バンドへの指示も入れておかないと」
走りながら二人でやるべきことをチェックする。

「なんかさっきから私たち走ってばかりですよね…」
春香のプロデューサーが言うと美希のプロデューサーは半笑いで応えた。

「これがプロデューサーの仕事なんでしょうね…」

「彼女達が表で力いっぱい活躍できるようにって奴ですねぇ」

「ですね、じゃあクレーンとミニステージ見てきますんでバンド、お願いします」

「了解!」

「じゃあここで」
二手に分かれようと春香のプロデューサーが手を上げた時、美希のプロデューサーが声を掛けた。

「あ、ちょっと!」
声を聞いて春香のプロデューサーが立ち止まる。

「どうしました?」

「いえ。…イベント、成功させましょうね!真ちゃんのプロデューサーの分も」
その言葉に春香のプロデューサーはニコリと微笑んだ。

「えぇ、必ず!」

 SS寄り