翌日
朝起きて、真は自分の左足に違和感を覚えた。
今日はやけに足が突っ張っている様な気がする。
「っかしいなぁ。まぁでも踊れない訳じゃないし」
何度か地面を踏んで足の状態を確認して真は事務所に向かって歩き出した。
「おはよう、真」
真が事務所に入ると同時にプロデューサーが出迎えてくれた。
「おはようございます!」
「体調に変わりは無いか?」
真は足の張りを言うべきかどうか迷ったが、差し支えは無さそうだと判断して敢えて言わなかった。
「大丈夫ですよ!」
「そうか、じゃあ行こう!」
オーディション会場は流石にBランクを掛けたオーディションともなると受験者も少なくなってきていた。
どんどん制限されて少なくなっていくライバル達に勝ってこそ、トップアイドルが目指せるんだ。
そう思うと真の気持ちはどんどん昂って行った。
「真が最後みたいだな」
登録をすませたプロデューサーが戻ってきた。
「ウォーミングアップはもう出来てますよ」
「すぐ始まるからな」
「解ってますって!」
今まで必至でレッスンしてきた。
それはきっと周りの子も一緒なのだろうけど、真には負ける気がしなかった。
プロデューサーが見てくれている。
だからきっと大丈夫!きっと負けない!
その思いが他のライバルと違う所であり真の強さであった。
オーディションは見事に通り本番のTV出演がやってくる。
「どうした真?何か気になる事でもあるのか?」
本番直前、違和感を感じたプロデューサーが真に声を掛ける。
「い、いえ。ちょっと緊張しちゃって…」
真の足の張りは以前よりも確実に増していた。
上手く動かせないと言うか、感覚が無くなる時がある。
「緊張してるだけならいいけど…」
真が何かを隠している事に気付いたプロデューサーは彼女の挙動を一つ一つ注意深く見守る事にした。
楽屋がノックされる。
「菊地真さ〜ん、そろそろ出番でーすおねがいしまーす」
「あ、はい。すぐいきますー」
「よし、じゃあ行こう。真!」
「はい!」
真の出番が近づいてくる。
真はいつもの表情を装っていたが不安を隠しきれてはいなかった。
プロデューサーは結局、違和感は単なる自分の勘違いだと処理して真を送り出した。
真が立ち位置に着く途中、事は起きた。
(あ…やばっ)
真が一瞬左足を引きずったのだった。
「っ!?」
プロデューサーは自分の甘さに気付いた瞬間でもあった。
(しまった!顔色ばかり見てて足に目が行かなかったな…何も起こらなければ良いが…)
プロデューサーが確信した時には既に遅く真の曲は始まってしまっていた。
眠れない夜 この身を苛む煩悩
焦燥感
耐えられないなら
アンダーグラウンドのサービスを呼ぶの
どんな時も万全に応えられる
出だしは好調だった。
今まで通りの動きで真は踊る事が出来ている。
(うん、大丈夫だ!さっきまでちょっと変だったけど歌いきれそうだ!)
真はそう再確認して、自分に言い聞かせていた。
(何も起こらなければいいけど…)
プロデューサーも真の足を心配していた。
(あと少しだ、行ける!)
踊っるわ 激っしく
望っみの 限っりに
神様の気まぐれは不意に訪れ、また自ら心に油断を生み出した時にこそ起こりやすい。
最後の1フレーズ。
最後のポーズを決める為、右足を上げた真の左足から突然感覚が失われた。
(…え?)
重心が乗りカクンと膝を曲げた左足をかばってバランスを保つ為にワンテンポ早く右足を出した真に激痛が走る。
燃やっすわ はっ!げっしく…
振り付けのテンポを早めた為に歌も少し早めた真の歌は結果的にテンポ良く終える事が出来ていた。
暗転の中、真は動けないでいた。
「まことっ!」
プロデューサーが駆け寄ると真は痛さの為に涙を零しながら立っていた。
「くっ…うぅ」
プロデューサーが見ると真の右足は側面しか地面に着いておらず足の裏は真の方を向いていた。
「ちょっとガマンしろよ!」
プロデューサーは真の体を足からヒョイと持ち上げた。
「腕は使えるな?ちゃんと首に掴まっててくれよ」
真は足の痛みを堪えるようにプロデューサーの首にギュッとしがみついた。
楽屋に着くと真を降ろしてプロデューサーは薬箱からシップとテーピングと包帯を取り出した。
真の右足を確認しながらプロデューサーは言った。
「捻挫で済んでれば良いけど…後で病院に行くからとりあえず応急処置だな」
プロデューサーは足の付け根の腫れの部分にシップを張ると包帯で軽く止めテーピングでガチガチに留めた。
「ご、ごめんなさい…」
「いつからだ?」
「変だなって思ったのは…オーディションの朝です…」
「はぁ…だから早く言えって言ったんだ!これで折れてたら数ヶ月活動停止だぞ!今が一番大事な時期なんだ!」
不意に大きな声を上げられ真はビクッと体を震わせ目をきつく閉じた。
初めてプロデューサーに本気で怒られたのが怖かった。
「ごめんなさい!」
「…」
真は閉じた目から更に明るさが失われた事に歯を食いしばった。
プロデューサーが立ち上がった為に、明かりが遮られたのを感じたからだ。
ぽん
プロデューサーは真の頭に軽く手を乗せて優しく撫でてやった。
「え…?」
驚いて見上げる真にプロデューサーは優しく微笑んだ。
「最後、良く頑張ったな。よく我慢した。よくあの状況で歌と番組を優先したよ。本当、今回はよく頑張ったよ、真。きっとファンは付いて来るよ」
プロデューサーの優しい言葉に真は思わず抱きついた。
知らない間に嬉しくて涙が零れていたみたいだった。
プロデューサーのワイシャツに大きな染みを作っていた。
最初に抱かれた時には感じられなかったプロデューサーのどこか暖かく真を安心させる匂いが真を包み込んだ。
(なんか…とても安心する…)
真は更に強くプロデューサーを抱き締めた。
その後、病院で診てもらうと足は捻挫で済んだ様なので早い内に復帰が出来そうだ。
と言うよりも直ぐに復帰してまた踊りたい。
さっき律子から電話があってこの前の番組でファンが増えてランクがBまで上がったそうだ。
Bランクになって、捻挫して律子は盆と正月が一緒に来た様な日だと言っていたけどボクはそうは思ってない。
捻挫をしたのは確かにツイてなかったかもしれないけど、ランクが上がった事、そして
本気でボクの事を心配してくれているプロデューサーの優しさが本当に嬉しかった事。
それだけでも 1対2で良い事の方が多いからきっとボクにとっては良い日だったんだと思う。
ううん、きっとそうだ!
プロデューサーと出会ってからボクの人生は今までも、そしてこれからもきっと良い事がまってるんだ。
ボクはそう信じている。
プロデューサーズサイド
真が行ったのを確認するとプロデューサーは店員さんに声を掛けた。
「すいません、この猫のオルゴール?小物入れとあと、ガーネットとぺリドットを交互に入れてブレスレットを2つ作って貰えませんか?」
店員の女性は微笑みながらプロデューサーの言葉に応えた。
「はい、ありがとうございますっ。3点で15,000円になります。お後、ブレスレットの出来上がりは3日後になりますがよろしいですか?」
店員の言葉にプロデューサーも笑顔で応える。
「構いません、できれば1週間後に取りに来たいのですが大丈夫ですか?」
「はい、ではお名前とお電話番号をこちらにお願い致します」
差し出されたペンで用紙に必要事項を書き込む。
「じゃあ、お願いします!」
プロデューサーは店を後にした。
数日後に控える何よりもプロデューサーの中で大きなイベントで真の笑顔を期待しながら…