小鳥が目を覚まして時計を見るとまだアラームも鳴り出していない9時前だった。
アラームの予約を止め毎朝の作業を済ませる。
空は冬晴れと言うに相応しい程、明るい太陽が照らしていた。
「良い天気♪」
天気が気持ちを表すかの様に晴々としていて、小鳥自信のテンションもいつもより確実に高くなっていた。
待ち合わせの時間の10分前には着く様にと準備をし終えたのはまだ10時にもなっていない頃。
逸る気持ちを抑えながら小鳥は時計を眺めていた。
「何時振りかしら、こんなに時間の流れがもどかしいのは」
思い起こせばここ最近、自分の都合で時間の流れが遅く感じる事は無かった。
アイドル候補生達のデビューやライブで時間が待ち遠しい事は多々合ったが自分の
ましてやプライベートでは実に記憶に久しい事だった。
待つ事2時間
小鳥が部屋を出て駅前に着いた頃、プロデューサーは既に駅前に居た。
「ごめんなさい、遅れちゃいました!」
謝辞を述べる小鳥にプロデューサーは優しく微笑んだ。
「まだ10分前ですよ、とりあえず行きましょう」
先を進むプロデューサーに小鳥は続いて歩き出した。
「あの、今日は何処へ?」
電車の中、ドアに寄りかかる様にして小鳥は立っていた。
「色々悩んだんですけどね…デートならやっぱり遊園地かなと」
遊園地
小鳥にとってこれもまたここ最近とんとご無沙汰な響きだった。
「楽しそうですね、フフッ♪」
そう微笑む小鳥とは対照的にプロデューサーは複雑そうな顔をしていた。
「そ、そう思って頂けるとセッティングした甲斐があるんですけどね…」
「?」
そうこう話している内に目的の駅に到着すると二人は改札を抜け遊園地に向けて歩き出した。
海辺に構えたテーマパークはアトラクションこそ少ない物の昼の賑やかさとは一変して
夜になるとイルミネーションが灯され様変わりする為夜景の綺麗なスポットとして人気の場所だった。
フリーパスを買い求め手首に巻く。
「うわぁ、人が沢山いますねぇ」
入り口を過ぎた途端、中は混み過ぎては居ないもののアトラクションはどれも人が並んでいた。
「確かに…ちょっと予想外でした」
「フフッ、なんか楽しくなってきちゃった♪プロデューサーさん、最初何から乗ります?」
小鳥が訊ねるとプロデューサーは辺りをキョロキョロと見回している。
心成しか何処か落ち着かない様子だった。
「あの、どうかされました?」
「いえ…とりあえず休憩かなと」
「えぇ!?来たばっかりじゃ…」
「そ、そうですよね。ははは」
プロデューサーの乾いた笑い声が聞こえてきた。
小鳥はそんなプロデューサーの様子を訝しく思ったがまずは乗り物を品定めしていた。
「やっぱりあれですかね!」
小鳥の指差す方向には幾重にもうねったピンク色のレールが高らかにそびえ立っていた。
「で、ですよね!ゆ、遊園地ですから…でも最初ならあんなのはどうですか?」
プロデューサーが指を指したのはメリーゴーランドだった。
「え?」
不思議に思いプロデューサーの顔を覗きこむと気温とは裏腹に汗の雫が見て取れた。
「…もしかして」
小鳥の言葉にプロデューサーがビクッと体を震わせた。
「な、なんでしょうか…」
「苦手なんですか?絶叫系」
小鳥が言うとプロデューサーは言葉を返した。
「ま、まさかっ!そんなことあるはずもない!」
何時もより半音高い声でプロデューサーは否定している。
「ほんとですかぁ?じゃあ行きましょう♪」
ニンマリと意味深な笑みを浮かべて小鳥は歩き出した。
「あの、ちょっと音無さん?」
「あーっとそれから」
「?」
「今日は”小鳥”って呼んでください。彼女ですから♪」
それだけ言うとスタスタと歩き出す。
「え、っと。…あぁ、ちょっと小鳥さん」
プロデューサーは慌てて小鳥を追いかけた。
係員に腕のフリーパスを見せ、ゲートを通り抜ける。
「はいすいませーん」
丁度小鳥達の前で係員が乗降口を遮った。
「ラッキー、最前列ですよ」
「はぁ…」
「嬉しくないです?一番前って」
「う、嬉しいですよ!」
「ですよねぇ♪」
「よくわかりませんが…」
「え?何か言いました?」
「いいいえ、何も!」
先に乗った人達の嬉しそうな悲鳴聞こえてくる。
「たのしそー♪」
「…」
しばらくするとジェットコースターが戻ってきた。
「はい、では順番にゆっくりご乗車お願いしますー」
係員がロープを外し小鳥達はジェットコースターの最前列に乗車した。
プロテクターを降ろしシートベルトを締める。
「フフフッ♪」
隣を見るとプロデューサーは明らかに緊張している様で発車前から手すりにしっかり捕まっていた。
プルルルルルルルッ
と発車を伝えるベルが鳴り響く。
ガタッと音を立てるとジェットコースターはゆっくりとレールを登っていった。
「プロデューサーさん」
「は、はいっ?」
「ジェットコースターって手すりに掴まらない方が楽しいんですよ」
「そ、そうなんですか?」
「誰も掴まってませんよ?こう両手を上げて落ちていくんです!」
そう言って小鳥は万歳のポーズを取った。
「まぁ落ちる時で良いんですけどね」
小鳥が言い終える頃ジェットコースターは頂上に着いたのか一瞬動きを止めた。
「はい、手を上げてください♪」
小鳥が手を上げるとプロデューサーも釣られて渋々手を上げる。
その瞬間
「きゃーーーーーーーーーーーーっ♪」
「うぉわあああああああああああっ!」
言いも知れぬ風圧が二人の髪を吹き上げた。
猛スピードで地面に近づいたかと思えば一瞬にして視界に広がるパノラマ。
海にはかもめ達が数羽風に乗って翔んでいた。
そしてフワリと体の中が浮く様な感覚と共に右半身に掛かる重圧。
速度を落とさぬままカクンと右や左に揺られ徐々に落ち着きを取り戻す。
ほんの数分の出来事だった。
「はい、お疲れ様でしたー」
ジェットコースターが元来た場所に戻り係員が声を掛けるとプロテクターが上がっていく。
「あー楽しかったぁ♪」
小鳥の後を追う様にプロデューサーが降りる。
「はぁ…」
気の所為か足元が力が入っていない様だった。
「次はあれいきましょっ!」
小鳥は一際高くそびえ立つ塔を指差した。
「あれ、なんですか?」
プロデューサーが少し疲れた声で聞き返す。
「フフッ、乗れば分かりますよ。いきましょっ♪」
そう言って小鳥はプロデューサーの手を取り走り出した。
プロデューサーの体温が自分の手を伝わって来ている気がして小鳥は微笑まずには居られなかった。
「フフフッ♪」
「どうかしました?」
「いいえ、こうしてると恋人同士に見えるかなって思いまして」
ニコニコと小鳥は嬉しそうに微笑んだ。
「そ、そうかもしれないですね」
プロデューサーは少し照れくさそうに言った。
「ほらほら、行きますよ♪」
「あっと、音無さん!」
「小鳥ですっ!」
「小鳥さん!ちょっと休憩を…」
小鳥がプロデューサーを連れて行った先は言わずもがな”落ちる奴”だった。
その後も”振り回される奴”や”ぐるぐる回る奴”、”水しぶきを喰らう落ちる奴”にプロデューサーは連れまわされた。
「はぁはぁはぁはぁ…」
「だ、大丈夫ですか?プロデューサーさん…」
心配そうに覗き込む小鳥に対してプロデューサーは苦し紛れの笑顔を作った。
「はは、は。だい、じょーぶですよ…」
とても言葉どおりに取れない様子で言うプロデューサーに小鳥は小さく溜息を吐いた。
「はぁ…フフッ♪じゃあ次はプロデューサーさんが決めて良いですよ」
その言葉にプロデューサーの表情がパッと明るくなった。
「ほ、ほんとですか?」
「はいっ♪」
「た、助かった…」
「はい?」
「いえなんでも!そ、そうですね…」
プロデューサーは辺りを見回すとテーマパークの片隅に在ったおどろおどろしい看板を見つけた。
「あれ!あれにしましょう!」
「あれって…ひっ!」
小鳥の笑顔が一瞬で凍りついた。
「あれなら歩くだけですね!」
「ちょ…あれは」
露骨に嫌がる小鳥の顔を見て今度はプロデューサーがニンマリと笑う番だった。
「さ、小鳥さん」
差し出された右手に恐る恐る手を伸ばすとがしっと力強く握られてしまった。
「ひぃっ!?」
半ば引きずられる様にして小鳥は入り口の前まで連れて行かれた。
「うぅぅ、こんなの無理ですよ…」
「平気ですよ、作り物ですから」
「ふぃぅぃぅぃぅぃぅぃ、無理です無理!無理無理無理無理無理無理無理無理…」
ふるふると震えながら首を振る小鳥をプロデューサーは強引に連れて行った。
「いきますよー」
入ってみると中はほぼ真っ暗の状態で赤やら青やらの照明が薄暗く灯されているだけだった。
しかもそのどれもが和を強調した歪なオブジェクトを写し出していて”落ちる奴”とは違った恐怖感を植えつける。
「いやあああああああああああっ!」
「あはははははははははははっ!」
進むに連れ音や急に飛び出すオブジェクトが小鳥の恐怖を余計に増幅させていた。
中は怖い話しでお決まりの効果音の他に小鳥の悲鳴とプロデューサーの笑い声だけが木霊していた。
「プ、プロデューサーさん!おお置いていったら怒りますよ!」
涙目になりながら小鳥はプロデューサーの腕を両腕で抱き込みながら言った。
「それはそれで見てみたい気が…」
悪戯っぽく言うプロデューサーに小鳥は声を荒げて言った。
「本気で怒りますよっ!」
そう言って腕にギュッと力を入れた。
「分かりました」
半ば諦めたようにプロデューサーは小さく溜息を吐いた。
どの道、小鳥にしがみ付かれていてはまともに歩く事すらままならない状態だった。
仕掛け一つ一つにいちいち丁寧に悲鳴を上げる小鳥が出口に差し掛かったのは入ってから20分程経った時だった。
「お疲れ様でした」
さらりと言うプロデューサーに小鳥はまだしがみ付いていた。
「うぅぅぅぅぅぅぅ」
「歩けます?」
「はい…」
「休憩しましょうか?」
「はい…」
「もう1回入ります?」
「はい…えええぇぇっ!?」
それを聞いてプロデューサーは声を上げて笑い出した。
「あはははははっ!冗談ですよ、休憩しましょう」
プロデューサーの腕にもたれ掛かる様にして小鳥は歩き出した。
(うぅぅ、まだ寒気がする…)
そう思いながら初めて自分が何をしているのかに気付いた。
辺りにも同じ格好しているカップルがちらほら見えていた。
(少しくらい、いい…かな?)
そう言い聞かせると小鳥は体重ではなく頭をプロデューサーの腕に預けた。
すぅーっと息を吸い込むとほんの少しプロデューサーの匂いがする様な気がしてなんだか照れくさくなった。
(不思議だなぁ、なんだか落ち着く…)
今まで高鳴っていた鼓動は落ち着きを取り戻し安心感を覚えていた。
オープンテラスのテーブル席に着くとプロデューサーが買ってきたブレンドコーヒーに口を付ける。
はぁっと暖かさの安堵に吐いた息が一際白く舞い上がる。
冬空の下、夕方とは言え辺りはすっかり暗くなっていてイルミネーションが綺麗に灯されていた。
「綺麗…」
その夜景の煌びやかさに小鳥はうっとりと目を細めていた。
「これがメインイベントかも知れないですね」
プロデューサーもネオンを見上げながら言った。
「そうですねぇ、今日ももうすぐ終わりですね」
そう寂しそうに呟くと小鳥はコーヒーを一口啜った。
「プロデューサーさん」
「どうしました?」
「最後に観覧車乗りませんか?」
小鳥が見つめている先に見えたのは一際輝くイルミネーションの施された大きな観覧車だった。
「構いませんよ」
小鳥の言葉にプロデューサーは優しく微笑んだ。
長蛇の列を作る観覧車乗り場に並び二人は向かい合うようにして乗り込んだ。
ゴンドラの中、二人はお互いに同じ景色を眺めていた。
登る途中会話は何も無かった。
ただ胸のざわつきだけが小鳥に何か訴えかけていた。
ゆっくりと、ただゆっくりと
登っていくゴンドラが今日の終わりを告げていた。
(今日が終わったらまた…でも、もし…)
小鳥はふと思った。
もし今の気持ちを伝えたらプロデューサーはなんと言うだろうか?
応えてくれるだろうか…。
そう思う反面プロデューサーに対して申し訳ない気持ちも何処かに残っていた。
半ば強引にこじつけてしまったデート。
果たしてそれがプロデューサーの負担になりはしないだろうか?
想えば想うほど怖い選択だった。
「小鳥さん」
「は、はいっ?」
「もうすぐ一番上になるみたいですよ」
プロデューサーは相変わらず窓を外を見つめながら言った。
「わぁあ♪」
観覧車が頂上付近に近づくと街が一望出切る展望台に早代わりし海側には水平線がはっきりと確認できた。
小鳥に取って今日最後のイベントはアトラクションから見る最高の夜景だった。
プロデューサーも今日の終わりを感じたのが大きく伸びをした。
「ふんっ〜〜〜〜あぁ、明日からまた仕事ですねぇ」
「そうですね、プロデューサーさんは明日はどうされるんですか?」
小鳥が訊ねると少し考える様な素振りを見せてプロデューサーは答えた。
「明日はあずささんに付きっ切りですね。ちゃんと事務所に来てくれるか心配ですけど…それでも」
「それでも?」
「それでも、引受けたからには必ずあずささんをトップまで導かないと中途半端な事は出来ませんし」
そう言い切るプロデューサーの眼には固い信念が写し出されていた。
そしてこの時、小鳥の中で一つの答えが導き出された。
「そうですね」
キラキラと眩く光る夜景に小鳥は視線を落とした。
観覧車を降りてテーマパークを後にすると二人は電車に乗り待ち合わせていた駅前に辿り着いた。
「プロデューサーさん、少し…もう少しだけ一緒にお話ししませんか?」
「えぇ、大丈夫ですよ」
プロデューサーが答えると小鳥はプロデューサーの手を取った。
「まだ、今日は終わってませんよね?」
上目遣いに言う小鳥にプロデューサーは笑みを零した。
「そうですね」
二人は事務所に向かう道の途中にある歩道を歩いていた。
少し離れた場所にさっきまで乗っていた観覧車が見える。
夜風が冷たい所為もあり辺りには既に人の気配は無かった。
小鳥はピョンと道の真ん中にある花壇の上に飛び乗った。
バランスを取る様に細い花壇の上を歩き出す。
片方の手はプロデューサーが支えていた。
「小鳥さん、今日は良い気分転換になりました?」
プロデューサーが言うと小鳥はニコリと微笑んだ。
「はい、おかげ様で久しぶりにすごく楽しかったです。ありがとうございました!」
そう言って小鳥は深々と頭を下げた。
「楽しんで貰えたのなら良かったですよ」
「ごめんなさい、今日は色々と無理させてしまって」
「あ…っと、気付きますよね…やっぱり」
ははっとプロデューサーは小さく笑った。
「でも、すごく嬉しかったです♪」
「あ、ははは。弱点を知られてしまいましたね」
「フフッ♪…はぁ、今日も終わっちゃいますね。残念だなぁ」
小鳥は丁度花壇の終わりに着いた頃、歩むのをやめた。
「そう言ってもらえるとセッティングした甲斐があります」
「もうちょっと恋人で居たかったです」
「また、からかってます?」
クスッと小鳥は微笑んだ。
「いいえ、本心ですよ♪」
予想外の言葉にプロデューサーは自分の耳を疑っていた。
「え?」
「きっと、私。プロデューサーさんの事好きなんです」
小鳥は少し嬉しそうに話していた。
「…」
「ううん、もう”好きだったんです”かも知れません…」
小鳥の言葉をプロデューサーは黙って聞いていた。
「初めて会った時にテラスでいいなぁって思ってて一緒に働けて嬉しくてこんな人が彼氏だったらなぁって想ってて、
それできっと酔った時にあんな発言しちゃったんだと思います」
小鳥はフフッと笑った。
「でもさっき気付いちゃいました。あずささんがトップアイドルになる為にはプロデューサーさんが絶対必要な事、
きっと私の我が侭はプロデューサーさんの負担になってしまうんだなって」
「そう…ですか。でもこう言う息抜きならまた機会が会った時に―」
プロデューサーが言いかけた時、小鳥の言葉がそれを遮った。
「いいえ…今日だけだから、一日だけだから。きっと素敵なんです。次があるって思ったらきっとそこにすがってしまいそうで…
そして、いつかそれにも慣れてしまうから…。今日は、一日だけの…魔法なんです…」
絶え間ない笑顔の小鳥の頬が街灯に照らされてキラリと輝いた。
「小鳥さん…」
「フフッ、ドラマみたいな台詞ですね」
頬に雫を伝わせながらも小鳥は依然と微笑を携えていた。
「プロデューサーさん」
「はい」
「ちょっと涙、拭きたいです。向こう向いてて貰えませんか?」
「え?」
「泣き顔は見られたくないんです…。一瞬でも…お願いします」
小鳥の言葉にプロデューサーは後ろを振り向いた。
小鳥は人差し指で瞳に溜まった涙を軽く拭った。
「もういいですよ」
その言葉にプロデューサーは小鳥の方に向き直った。
「最後に一つ我が侭を聞いて貰っていいですか?」
さっきと変わらない笑顔で小鳥は懇願していた。
胸の内は張り裂けそうな位寂しさで込み上げていた。
「なんでしょうか?」
「最後に、しませんか…?キス…」
小鳥の言葉にプロデューサーは再び耳を疑った。
「え…?小鳥さ―」
「今日は一日彼女ですから…いいですよね?」
その瞬間、プロデューサーの視界に小鳥の両手が飛び込んできた。
プロデューサーの首を抱きしめる様にして小鳥は少し開き気味の唇を重ねた。
「んっ…」
僅かにカチッと歯がぶつかり合った。
小鳥の想う気持ちを乗せて唇が重なり合う。
小鳥は名残惜しさと切なさで折角拭った涙が再び溢れ出していた。
どれ程の時間が経っただろう…
じんとした歯の痛みも忘れて唇が感覚を失うと小鳥は唇を離した。
「…はっ、はぁはぁ」
離した途端息苦しさを思い出し慌てて空気を吸い込む。
「こ、とりさん?」
プロデューサーはにわかには状況が掴めていなかった。
「ごめんなさい…気持ちも聞かずに。でも、初めてちゃんと好きになった人に貰って欲しかったから…
少しでも忘れないで貰えたら嬉しいです。私の…初めてのキス…」
言って小鳥は小さく微笑んだ。
「でもこれでちゃんと吹っ切れました。プロデューサーさんの事好きだった自分を後悔したくありませんでしたから」
「小鳥さん、俺も何か出来る事があれば必ずお手伝いしますよ」
「その気持ちだけで…じゅ、ぶ…です」
堪えきれなくなった小鳥の涙が溢れる。
「でももし、私が…プロデューサーさんが好きな自分を思い出したら。この決心にくじけそうになったら…
プロデューサーさんが…私を叱ってください…」
グスッと鼻を鳴らすと小鳥は再び笑顔を取り戻した。
「分かりました…」
「また、明日から同僚として…仲良く…し、てくださいね♪」
翌日
「おはようございます、プロデューサーさん」
「あ、おはようございます。ことり…音無さん」
プロデューサーの言葉を聞いて小鳥はクスッと笑った。
「呼び方はそのままで結構ですよ、苗字だとかえってくすぐったいです」
「そうですか、じゃあ小鳥さんで」
「はい♪今日もお仕事頑張りましょうね♪」
「はいっ」
そして今日も一日が始まる。
いつもと変わらないいつもの日常。
しかしこの日唯一つ違ったのは愛情と言う気持ちと一つの別れをした事によって得た小鳥自身の新しい第一歩のスタートでもあった。
そして小鳥は笑顔で見送る。
プロデューサーを
アイドルを
生まれ変わった新しい自分を…
<一晩の恋> -One night Love-