<頼んでもらう>
「あ、じゃあウーロン茶を…」
「はい。あ、お姉さんウーロン茶とウーロンハイを一つずつ下さい」
プロデューサーが注文をすると少しすると店員がグラスを二つ持って戻ってきた。
「ありがとう、はいどうぞ」
店員から受け取るとプロデューサーはグラスの一つを小鳥に手渡した。
「あ、ありがとうございます」
受け取る際にまた指が軽く重なった。
(うぅ、ドキドキが止まらない…)
ひんやりとしたグラスが多少気を紛らわせてくれたが小鳥はまだ胸の高鳴りを抑えきれずにいた。
ドクン ドクン
と一際大きく鳴る鼓動が胸を伝わる。
息苦しさを覚えながらチラリと隣を見るとプロデューサーは床の染みが気になるらしく時折眺めていた。
(好きに…なっちゃったのかな?)
小鳥の想いは露と知らずプロデューサーはグラスに注がれていた飲み物を口に含んでいた。
(でもでもでも…そんな事言えないし…)
小鳥もプロデューサーが手渡されたグラスを口に運ぶ。
(あれ…)
一口飲んで小鳥はウーロン茶に違和感を感じた。
ウーロン茶にしては少し違った苦味が舌に絡み付いていた。
「音無さん」
呼ばれて振り向くとプロデューサーがこちらを見つめていた。
「はい?」
「それアルコール入ってませんか?」
プロデューサーに言われて小鳥はこの時気が付いた。
「あ、入ってるような気がしますね」
「やっぱり、こっちがウーロン茶だけのみたいです」
そう言うとプロデューサーは手に持っているグラスを軽く振ると氷がカランと音を立てた。
「すいません気付かなくて、俺がそっち貰いますよ」
プロデューサーが右手でグラスを差し出す。
「あ、はい」
釣られて小鳥も右手でグラスを渡し、代わりに左手でグラスを受け取る。
受け取って小鳥はほっと小さく溜息を吐いた。
(あぶないあぶない、お酒飲んだら寝ちゃうところだった)
そう思いながら手渡されたウーロン茶を一口飲むとキンと冷えた感覚が喉を過ぎて気持ちをいくらか落ち着かせてくれた。
「そうよね、ウーロン茶はこうよね」
フフッと小さく微笑むと手に持っていたウーロン茶の氷をカランと鳴らしてみた。
「どうかしました?」
「い、いえ!独り言です」
「なるほど」
プロデューサーは笑顔を作ると箸でお新香を摘まんだ。
(これ、さっきまでプロデューサーさんが持っていたのよね)
それだけの事なのに小鳥は口元はほころんでしまう。
そんな風になってしまう自分が中学生みたいだと思いつつも嫌な気分ではなかった。
(さっきまで彼が持っていた物かぁ…あれ?)
小鳥は小首を傾げた。
(さっきまで持っていたって事は…さっきまで飲んでたって事で…!?)
そしてそれを自分は口にしてしまっている。
間接キス
その4文字が小鳥の脳裏を駆け抜ける。
その瞬間、ボンッと音を立てる様に小鳥の顔が真っ赤に染まる。
「あわわわわ…」
「?」
不思議そうに見つめるプロデューサーに気付きもせず小鳥は考えていた。
ちゃんと手を繋いだ事すら無いのにあろうことが間接的に口を付けてしまっている。
その事実が更に小鳥を混乱させていた。
(てことはっ!?)
小鳥が振り向くとプロデューサーはグラスを手に持っておりそれを口に運ぼうとしていた。
「だめですっ!」
「え?」
叫ぶ小鳥に気を取られプロデューサーは寸での所で手を止めていた。
「そそそれ、やっぱり私飲みます!」
持っていたウーロン茶を一気に飲み干すとプロデューサーからグラスを奪ってそれも一気に煽る。
「ちょ、ちょっと!音無さん!?」
いきなりの小鳥の変貌振りにプロデューサーは狼狽していた。
「ゴクゴクゴクゴクッ、はぁ!」
飲み終えた瞬間、ドクンと心臓が鳴った。
(あれ…)
気の所為か視界が少しぼやけている。
「音無さーん・さーん・ーん・ーん」
プロデューサーの声が山彦の様に木霊していた。
「フフフフフッ」
なんだか可笑しくて笑いが止まらなかった。