ついでにリンクを掘り進むと秋風のヘタレな絵があります><
何があっても怒らない人限定です。
-終-の部分です。

<Christmas 4 me>

プロデューサーの記憶

千早の声もまた歌えるまでに回復していた。

それから二人はお互いの気持ちを知りつつも美希達の様な大胆な行動に出ることは無かった。

ファンを減らさない為にとプロデューサーの言い出した提案だったし、千早もそれに異論は無かった。

プロデューサーも千早もそれぞれの遅れを取り戻すべく営業、レッスンに没頭していた。

その間、二人は会っても顔を合わして話す程度で長く時を同じくすることは無かった。

そして気持ち以外今までとなんら変わらない日々が過ぎていった、ある日

千早P「千早、プロモーション作り決定したぞ!」
ミーティングルームで待機していた千早に向かってプロデューサーはドアを開けながら言った。

千早「プロモーションですか?」

千早P「そ、<目が逢う瞬間>のね。今までお願いはしてたんだけど都合が合わなくてね…」

千早「じゃあ!?」
千早が瞳で訴えるとそれに応える様にプロデューサーはニコリと微笑んだ。

千早P「リリースしよう!先輩達には負けてられない」

千早「プロデューサーっ!」
千早は堪らず抱きついた。

事故がきっかけで気付けた事…

その全てを千早は思い、悩み、悔やんだ。

そしてそれを改める様に日々努力を惜しまずレッスンし続けてきた。

ゼロから出発しその結果が今回の新曲リリースだった。

千早「ありがとうございます!」

千早P「お礼を言うのはこっちの方だよ。よく頑張ったね。ついて来てくれて嬉しいよ」
そう言うとプロデューサーは千早の頭を優しく撫でた。

久しぶりに感じるプロデューサーの温もりに千早は涙腺が緩みそうだった。

ふと、知らぬ間に自分が何をしているかに気付くと千早は耳まで顔を紅くした。

密着している。

顔を上げればすぐそこにはプロデューサーの顔がある。

心臓が高鳴り始める。

千早はこらえる様に唇をキュッと噛み締めた。

千早P「千早?」

千早「え?」

千早P「つ、続きを。話したいんだけど…」
それを聞いて千早は慌てて身を離した。

千早「ど、どうぞ…」
プロデューサーは咳払いを一つしてネクタイを締めなおした。

千早P「撮影期間なんだけどちょっと急で12/23〜12/25の3日間しかないんだ」
ばつが悪そうにプロデューサーが言う。

千早P「絶対に失敗する訳にはいかない。新曲リリースを遅らせ事は出来ないからね」

千早「そう…ですね」

千早P「プレッシャーは掛けるけど、それでも余裕を持っての3日間だから頑張って欲しい」

千早「はい!」

千早P「なにかあるかな?」
質問事項を聞き直すプロデューサーに対して千早はフッと何かを考える様に視線を落とした。

千早「撮影、クリスマス…なんですね」

千早P「あ…うん、申し訳ないけど…」

千早「あ、いえ!別に哀しいとかそう言うんじゃ無いんです」
すまなそうな顔をするプロデューサーに慌てて否定すると千早は寧ろ嬉しそうに微笑んだ。

千早「一緒に居られるんですね。私は、傍に居てくれたら。それだけで…」
そんな事を健気に言う千早をプロデューサーは愛しく思っていた。

千早P「う、うん。傍に付いてるから」
言葉につかえてしまってプロデューサーはやっとの思いでそれだけを言い終えた。

千早「それでは、連絡。待ってますね」




撮影二日目の夜

二日間の撮影を順調に終えた千早はホテルで喉を潤していた。

千早「んっん、あーあー。うん、大丈夫そう」
喉の調子を伺っていると不意にドアがノックされた。

千早「はい?」

千早P「俺だよ」
聞きなれた声を聞くと千早はドアを開いた。

千早「どうしたんですか?」
不思議そうに問いかける千早の言葉に「うん」と軽く返事をしてプロデューサーは窓に向かって行った。

その姿を見て千早はクスリと笑った。

千早「フフッ。60階ですよ?ここ」
プロデューサーの癖は相変わらずだった。

正確には千早の安否を確認する為の警戒動作だった事は記憶を取り戻したプロデューサーが教えてくれた。

千早P「そうだったね。いや、喉の調子はどうかなと思ってさ」
プロデューサーはやっといつもの笑顔に戻った。

千早「順調です、明日も問題は無いかと」

千早P「そっか、なら良かった。ちょっと大変だけど明日で終わりだからよろしく頼むよ」
外の様子を気にしつつプロデューサーは言った。

千早「はい」
返事をした千早も窓の側に近づくと空を見つめた。

千早P「その…」
プロデューサーが言い難そうに言葉を続けた。

千早P「ごめん、イヴの夜がこんなで…」
謝辞の言葉を告げる。

隣で呟く様に話すプロデューサーを一目見て小さく微笑むと瞳を閉じて頭をコテッとプロデューサーに預けた。

千早「前にも言いましたよ、傍に居てくれたらいいんです。ただ…」

千早P「ただ?」

千早「もうすこし、このままで居ても?」
そうやって少し甘える千早の髪をプロデューサーは軽く梳いた。

千早P「いいよ」
その言葉に千早も大きく安堵の溜息を付く。

何も言わずにただそうしているだけの時間だけが流れていく。

口ではそう言っているものの千早の本心は寂しさと切なさでいっぱいだった。

プロデューサーを見つければ声を聞きたくなる。

声を聞けば触れたくなる。

プロデューサーの温もりを感じた日は幸せな気持ちで眠りを迎える。

プロデューサーが居なければ無意識に探してしまう。

姿が見えないと孤独に押し潰されそうになって涙が零れる。

そんな日々を繰り返していた。

勿論言った事に嘘は無い。

プロデューサーが自分の為を思って言ってくれた事に異論も無い。

逢えれば嬉しいし、逢えなければ淋しい。

言ってしまえばただそれだけの事だった。

それを噛み殺して千早は今の穏やかな笑顔を保っていた。

千早P「あ、雨?」
プロデューサーの声に千早が窓を見るとガラスに一筋の水滴が途切れ途切れに付着していた。

千早P「続かなければいいけど…」

千早「そうですね」
気の無い返事を返す。

プロデューサーと一緒に居られる幸福感に包まれた千早にはどうでもいい事だった。

千早P「そろそろ戻ろうかな」
その言葉にふぅっと小さく溜息を吐くと千早はもたれかかっていた頭を上げた。

千早「はい」

千早P「また明日起こしに来るから」

千早「えぇ」

千早P「まあ起こした試しは無いけどね」
それもそのはず千早は起こされる前にトレーニングの為に既に起きているからだった。

そう言うとプロデューサーはドアをパタンと閉じた。

しばらく窓を見つめていた千早がベッドに入ったのは1時間後の事だった。




翌朝

千早は目を覚ますと窓のカーテンを開いた。

プロデューサーの願いも空しく雨は未だに降り続いていた。

千早「やむかしら…」
空はグレーの雲が薄く広がっていた。

千早がトレーニングを終え毎朝の作業を終え鏡を覗いて髪を弄っているとドアをノックする音が聞こえてきた。

千早P「千早ー。起きてる?」
千早は返事の変わりにドアをゆっくり開いた。

千早P「今日も起こせなかったな…」
残念がるプロデューサーを見て千早は笑った。

千早「起こしたいですか?」

千早P「たまにはね」
千早はそう言って窓の方に行こうとするプロデューサーの袖を引っ張った。

千早「撮影はどうなるので?」
癖の発動を止められてしまったプロデューサーは落ち着かない様子を見せたがすぐに返事をした。

千早P「空のご機嫌を伺ってみないと分からないね、とりあえずスタンバイだけしておいて欲しい。待ってるから」
そう言うと焦りもあった為かプロデューサーは部屋を後にした。

千早も準備を済ませて部屋から出る。

挨拶を済ませながら現場に入ると撮影の準備はされているものの誰もが天気の事ばかり気にしていた。

千早P「ちょっと待ってみよう、最悪中止も考えるしかないかな…この調子だと」
悔しそうにプロデューサーが言った。

千早にとってもそれはどうしても避けたい所だった。

プロモーションの延期は新曲のリリースの延期にもなりかねない。

降りしきる雨の中、プロデューサーと千早はただひたすら待ち続けた。




撮影時刻の限界が近づいてきた時、雨足は弱まったもののぱらぱらと降り続けることを止めては居なかった。

千早P「限界かもな…」
プロデューサーがスタッフに向かって歩いていった。

千早はスタッフが配ってくれたホットココアの入ったマグカップを手に持ってプロデューサーを見つめていた。

プロデューサーは何やら空を指しながらスタッフやカメラマンと話している。

千早「…(中止の相談…かしら。こう言うとき他の子達はどうするかしら…春香とか)」
春香なら間違いなく中止だろう。

ただでさえ良く転ぶのに加えての雨でぬかるんだ地面。

プロデューサーが許すはずも無い。

理由は違えど律子も同じだろう。

千早「…(美希は?)」
ふと美希の顔が浮かんできた。

何よりほんの少し前まで同じ事を同じユニットで経験していた美希が何より今の自分に近いはず。

千早「…(美希なら…)」
考える千早の頭に美希の姿が思い浮かんだ。

千早「…っ!?」
千早は少しぬるくなったココアをコクリと飲み干すとショールやブランケットを畳んでプロデューサーの元に歩き出した。

千早「やりましょう、プロデューサー」
千早は笑顔を携えていた。

美希ならどんな時でもプロデューサーの為にはまっすぐだった。

自分の成功をプロデューサーの一部として信じていた美希なら間違いなく中止などしない…。

させない!

現に美希は大雨の中、<relations>のプロモーションを成功させている。

千早P「え?」
中止する方向で進めていた話しを当人から中止されてしまったプロデューサーは驚きを隠せなかった。

千早「このまま新曲を延ばす位なら止めた方がましです!」
千早は真剣な眼でプロデューサーを見つめた。

千早の新曲リリースは千早とプロデューサーの成功への第一歩。

千早はそう信じていた。

それを進む前から下がる訳にはいかない。

つまづかせてはいけない。

そう思うとむしろこの状況下で歌わせて欲しかった。

千早P「千早…」
しばらく千早を見つめていたプロデューサーが口を開いた。

千早P「…分かった。再開しよう」
やれやれと言った感じでプロデューサーが苦笑する。

千早「プロデューサー…」

千早P「分かってると思うけど、リハーサルの時間なんて無いからな!」
言って来いという感じでプロデューサーが千早の両手で肩を叩いた。

サラサラと霧の様な雨が降り注ぐ中、千早はベンチコートを脱ぎカメラの前に立った。

空を仰ぐ。

細かな雫が顔に落ちてくる。

千早「…(これが、私の第一歩。そして私とプロデューサーの第一歩…!)」
カメラに向き直り合図を送る。

それに合わせて<目が逢う瞬間>のメロディが鳴り出す。

千早P「…(ジャケットで傘持ってるのに雨のシーンが無いのは逆に違和感あるかもな…頼むぞ、千早)」
そんな事を思いつつ歌い始める千早をプロデューサーはカメラの後ろから見守っていた。

カメラの中には千早が映っていた。

目と目が逢う瞬間好きだと気付いた♪

千早の声が聞こえると同時にカメラの中の千早の瞼が開かれる。

千早はカメラの向こうで一瞬だけ微笑んだ。

プロデューサーは見た時、照れた様に苦笑した。

そして本物の千早を見つめる。

千早P「…(届いてるよ、千早の声)」

貴方は今どんな気持ちで居るの?♪
戻れない二人だとわかっているけど♪
少しだけこのまま瞳逸らさないで♪

たくさんの人の波♪
あの人だけはわかる♪
繋いだ指の強さ♪
あの頃の愛が今動き出すの♪

Ah....揺れる気持ち

Ah....奪って欲しい

切ない少女の気持ちを歌った歌詞ではあったが千早は今の想いを乗せてカメラの向こうのプロデューサーに向けて歌っていた。

千早は様々なカットをリハーサル無しの状態で着々とこなして行った。

その一つ一つは全てにおいて完璧なまでの仕上がりだった。

そして最後のシーン

千早の扮する少女が想い人と歌詞中の様に人波の中で目が合った後離れて行く想い人をそのまま目で追うシーン

千早が人の中を歩いてふと立ち止まる。

そして横を振り返るとそこに貴方が居る。

そっとカメラを見つめる。

徐々にカメラのズームが千早の顔に迫って行く。

千早が瞳を閉じると一雫の涙が零れ落ちる。

そして再び瞼を開いた時、一片の白い塊が千早の目の前をフワフワと舞い降りた。

千早「…(え?)」
千早P「…(雪!?)」
雨はいつの間にやら雪に変わっていた。

雪が奇跡的にシチュエーションを盛り上げる結果となった。

雪がパタパタと千早の服や髪を白く飾り付けていく中、カメラは引いていく。

カメラの中の千早が小さな点になった頃、スタッフの声が鳴り響いた。

カメラを見直す必要の無いほど完璧を超えたプロモーションに仕上がっていた。

プロデューサーは自分のコートを脱いで千早に駆け寄り千早に羽織らせる。

千早P「お疲れ様、千早」

千早「お疲れ様です!」
千早は暖かいプロデューサーの温もりと優しい香りに包まれていた。

スタッフ達がバタバタと片づけを始めている中、千早とプロデューサーはホテルへと急いだ。




千早P「え?」
聞き返すプロデューサーにフロントは答えた。

フロント「ですから、先程関係者の方が取りに来られて既に持って行かれましたけど?」

千早P「あ…しまった…」
千早を着替えさせる為にホテルに連れて来たプロデューサーがミスに気付いたのは部屋への入出が出来なくなっていた時だった。

時間的に少し押してしまったが着替えだけでもと思い連れて来たが、千早が決断するまでの間に中止と見込んでスタッフに頼んで持ち物を移動して
退出の手続きまで済まさせてしまっていた。

千早P「あああああああああああああああっ!俺とした事がっっっ!忘れてた…」
その様子を見ながら千早はクスクスと笑っていた。

初めてプロデューサーのミスを目の当たりにしたからだった。

自分でも潔癖なくらいこれまでキチンと確認し仕事をこなしてきたのだろう。

あんなに悔しがるプロデューサーは何だか滑稽に見えた。

千早P「すまん、千早…寒くないか?」

千早「大丈夫です」
そう言いながらも千早は時折カチカチと歯を鳴らしていた。

そんな千早を見ているとプロデューサーは居た堪れなくなった。

クランクアップの余韻に浸る事も無くホテルを後にする。

近くの駐車場は雨が降っていたせいもあってかプロデューサーの車しか停めていなかった。

千早P「とりあえず家まで送るよ」
急ごうとするプロデューサーの袖を千早はギュッと掴んだ。

千早「…」

千早P「ん…?千早?」

千早「見ていて…くれましたか?」
呟く様に言う千早に向かってプロデューサーは答えた。

千早P「…うん、見てたよ。素晴らしい出来だった。きっと良い作品になったと思う」
プロデューサーが言うや否や千早はプロデューサーに抱きついていた。

千早P「千早?」
不意に抱きついた千早をプロデューサーは不思議そうに見つめていた。

千早「良かった…うっ…グス…」
不意に泣き出す千早にプロデューサーは驚いた。

千早P「ち、ちょっと?」

千早「良かった…遅らせな、でよかった…ひっく、わたしと、ぷろ…さの作品…」
泣きつく千早をプロデューサーは優しく抱きしめた。

千早P「うん、ありがとう」
ポンポンと千早の背中を叩く。

千早は不安と緊張の糸が切れたのかプロデューサーのシャツが染みるまで泣いていた。

千早P「とりあえず、帰ろう?そのままじゃ風邪ひくよ」
千早はフルフルと首を横に振る。

千早「嫌です…」

千早P「でも、ほら。人目に着くし」
それでも千早は首を縦には振らなかった。

千早「コートがあるから、誰も私だと気付きません…」
自分でも苦しい言い訳だと思ったが、離れたくはなかった。

そう思ったとき再び涙が溢れ出した。

寒さの中、プロデューサーの温もりがいつもより愛しく感じてしまっていた。

千早「今日は…きょう、だけわ…一緒に…っ…傍に…すん…居てください!……独りにしないでぇ…」
今まで噛み殺していた感情が一気に千早から溢れ出る。

淋しさ

嬉しさ

切なさ

安堵

孤独

幸福

全てがプロデューサーへの想いと言う形で…

求める千早の言葉にプロデューサーは戸惑いを隠せなかった。

千早の気持ちも嬉しいし、同じ事をプロデューサーも感じていた。

しかしプロデューサーには千早を思うが故の不安もあった。

千早の歌手人生を自分の手で摘んでしまいやしないか?

それで果たして千早は幸せと思えるだろうか?

千早P「千早…千早はそれでいいのか?」

千早「…」

千早P「正直に話せば俺も辛いよ。俺だってもっと千早の傍に居たい、もっと千早の声を聞きたいと思う」

千早「…っ」

千早P「千早は…」
千早が顔を上げる。

千早「貴方じゃなきゃ、嫌です…」
涙を瞳に滲ませてそれでも尚プロデューサーの目を見つめていた。

千早P「ごめん」
その瞳を見たプロデューサーは千早をきつく抱きしめた。

千早の想いを今までどれだけ無下にしてきただろう。

そう思うとそれだけしか言えなった。

千早が泣き止むまでそうしていた。

プロデューサーが我に返ったのは千早の体がカタカタと震えだした時だった。

寒いのは当然である。

千早が着ているのはプロモーション用の衣装で防寒効果など殆ど無い。

プロデューサーの体温とコートだけがかろうじて千早の体を守っていた。

千早P「ごめん、寒いよな…とは言っても着替える服も無いし。やっぱり家に…」
言いかけた時、千早がギュッとしがみついてくる。

千早P「うーん…どうしたら…」
途方に暮れていると千早が口を開いた。

千早「一緒に居ては…いけませんか?」
懇願する様な上目遣いの瞳で見つめられたプロデューサーは困惑していた。

千早P「いや、一緒にいるよ。それはいいんだけど…うーん」
戸惑っているプロデューサーの服を掴みながら目を逸らして言った。

千早「あの…その、プロデューサーの………せんか…?」
ぼそぼそと呟く様に言う千早の声は聞き取り難かった。

千早P「え?ごめん良く聞き取れなかった」
千早は赤面しつつも意を決したように一呼吸置いて震える胸を押さえると再び口を開いた。

千早「プロデューサー、の…家に。その…行っては、いけませんか?」
プロデューサーは自分の耳を疑った。

千早P「俺の家か…。て、えぇぇっ?まさか、えええぇぇっ?」
プロデューサーの言葉も気にする余裕も無く千早は答えを待った。

千早「一緒に…居たいんです。プロデューサーも同じ気持ちなら…ね?」
千早はチラッとプロデューサーの顔を見てまたすぐに伏せてしまう。

千早「いけま、せんか…?」
恥ずかしさと寒さの為か服を掴む手も震えていた。

キュッと瞳を閉じてプロデューサーの答えを待っている。

そんな千早の姿を見てプロデューサーは小さく溜息を吐いた。

何よりも寒さに震えている千早を見ている事が辛くさえ思えた。

千早P「分かったよ。今日は一緒に居よう」
プロデューサーの言葉はとても心地よかった。

半ば無理を承知で言っていたので断られる事を予想していたものの、プロデューサーは気持ちに答えてくれた。

千早P「車乗って」
千早は助手席に座るとコートを前から羽織った。

プロデューサーはエンジンを掛けると暖房の風量を最大に回す。

そして携帯を取り出してポチポチとボタン操作を始める。

パタンと携帯を閉じるとハンドルに手を掛けアクセルを踏む。

走っている途中車内は一定のリズムで聞こえるワイパーの音だけが響いていた。

自分から言い出したもののこの展開の中、何を話していいやら想像がつかなかった。

期待と恥ずかしさ、好奇心の中チラリと隣のプロデューサーの顔を覗く。

チラッとプロデューサーと目が合う。

咄嗟に目を逸らしてしまった。

千早P「ごめん。何か、音楽流そうか」
プロデューサーが車内オーディオの再生ボタンを押すとピッと電子音が鳴った。

<私はアイドル>の曲が流れ出す。

まだティアラで活動していた頃、春香を迎えた当時Sランクの3人で組んだ時の曲だった。

車内が春香、美希、千早の声で満たされる。

この頃の曲が遠い過去の話しの様に感じられる。

ビビビビッとCDが回転する。

もうすーぐ待ーちあーわせの時間がやーってくる〜♪

次に流れ出したのは<神様のバースデー>だった。

この時期の為に作られた3人のクリスマスソングだった。

まさか過去の自分が今この状態でこの曲を聴いているとは思うまい。

そんな事を考えていると可笑しくなって来た。

隣ではプロデューサーが鼻で歌いながらハンドルを握る指でリズムを取っている。

ふーたーりーで祝おう 神ーさーまーのバースデイッ!♪

一際元気良く美希の声が聞こえる。

美希はきっとクリスマスを二人で過ごす予定を立てていたに違いない。

不思議な程美希の声が嬉しそうに聞こえた。

千早P「リクエストがあれば流すよ?765のアイドルの歌は全部入ってるから」
気を使ってプロデューサーが言ってくれた言葉に大きく頭を振る。

聴きたい曲はあるがそんなのが流れた日には余計に顔が見れなくなってしまう。

千早P「そっか。まぁ待ってれば流れてくるから」
そう言うとプロデューサーは小さく微笑んだ。

<神様のバースデー>が終わるとそれぞれのアイドルの持ち歌が次々と流れ出す。

どれもそれぞれの持ち歌をカバーする形で収録したM@STER BOXのCDだった。

春香の<relations>や美希の<エージェント夜を往く>、伊織の<蒼い鳥>が流れていた。

次に流れたのは<9:02PM>あずさの持ち歌だった。

千早「…」
イントロが流れ歌い出すのを千早はじっと待っていた。

GoodNight 一人きり♪

千早「くっ!?」
図らずも一番起きて欲しくない事が今起こっていた。

<9:02PM>は聴きたい曲だったが恥ずかしさのあまり今一番聴きたくない曲であったにも関わらず歌い手は自分である。

この曲には一瞬ながらも想いを伝える台詞部分がある。

一秒だけでもいい 君を今♪
感じたら♪

「好き…」

言ってしまった…。

恥ずかしすぎてプロデューサーの顔なんて見れなかった。

千早P「…」
プロデューサーも気まずい様で黙々と運転に集中していた。

丁度曲が終わった頃、車がキュッとブレーキ音を立てて停車する。

千早P「コンビニ行って来るな。っと」
プロデューサーは後部座席からキャップを取り出すと千早に被せた。

目深に被り隙間からプロデューサーの買い物姿を観察する。

時折、近くを人が通るのでその都度帽子のつばを下げた。

両手に膨らんだコンビニ袋を携えて出てきたプロデューサーは後部座席に荷物を置く。

千早P「おまたせ。まぁもう目の前なんだけどね」
言われて前を見ると少し離れた場所に建てて間も無いのか少しお洒落な感じのするマンションが建っていた。

地下の駐車場に車を停め荷物を持つ前にプロデューサーは鍵を千早に渡した。

千早P「ごめん、開けてもらえる?」
両手に荷物を持ち車のドアを閉めるとピッとロックした。

寒気にさらされた千早が小さく身震いする。

千早P「部屋は暖まってる筈だから、寒くはないと思うけど…」
そう言うとプロデューサーは荷物を抱えて先導した。

エレベーターに乗って13階まで昇る。

13階の角まで行くと立ち止まった。

千早P「ここだよ」
その言葉に後ろから付いて来てた千早が慌てて鍵を差し込むとゆっくりドアを開けた。

入りながらプロデューサーが喋る。

千早P「いらっしゃいーって開けて貰って言うのもなんだな…」
ポチポチと馴れた手付きで明かりを点けていく。

千早「お邪魔します…」
千早も靴を脱いでプロデューサーの用意してくれたスリッパに履き替えて続く。

プロデューサーの言うとおり部屋の中は暖房が効いていて寒さは感じなかった。

千早P「さっき携帯で予約しておいたからねぇ。あ、その辺に座ってていいよ」
千早は辺りを見回して近くにあったハンガーにコートを掛けるとベッドにちょこんと座る。

プロデューサーは買ってきた物を冷蔵庫にしまいピッとボタンを押した。

少し離れた場所からお湯の流れる音が聞こえてくる。

千早P「っと、着替え着替えはと」
衣装姿の千早を見てプロデューサーはガサゴソとクローゼットを漁り出した。

その様子を落ち着かない様子で千早は見ていた。

プロデューサーの部屋は壁紙がグレーや黒を基調にしたモノトーンカラーで落ち着く感じの印象を与えた。

電子ピアノが置かれている以外、目立った物は見当たらなかった。

千早P「しまった…」
プロデューサーが慌てて違う部屋のドアを開ける。

千早「…?」

千早P「あちゃ…」
一言呟くとプロデューサーが申し訳無さそうに出て来た。

千早P「ごめん、洗濯したんだった…ちょっとコンビニ見てくる!」
そう言って出て行こうとするプロデューサーを千早は止めた。

千早「あの!このままでも大丈夫ですから…」

千早P「そうは言っても濡れてるだろ」

千早「そうですけど…」
淋しそうに言う千早を見てプロデューサーは溜息を吐いた。

千早P「ふぅ。じゃあとりあえず風呂が沸くまではそれで我慢してて。適当に見繕うから」
諦めたようにプロデューサーは言うと冷蔵庫から食べ物を取り出していく。

千早P「お腹は空いてる?」

千早「いえ、それほど…」

千早P「そっか。じゃあいきなりメインでいいかな」
そう言うとプロデューサーは小さな箱をテーブルの上に置いて小皿を二つフォークを二本用意した。

再びキッチンに戻る。

何やら考え込んで何かを出したりしまったりしている。

千早P「ふむ…ま、特別な日だからね」
何やら独り言呟くと緑色のビンとワイングラスを二つ持ってきた。

プロデューサーが小さな箱を開けると「メリークリスマス」と書かれたチョコレートのプレートが目に入った。

小さなケーキが飾られている。

中にはろうそくが幾つか入っていた。

千早P「これって吹き消すもんなのかな?」
そんな事を言いながらプロデューサーはさっき持ってきたビンを何かでキュルキュルと開けている。

コルクを外すとワイングラスに濃紅色の液体が注がれていく。

ワインが注がれるとツンと酸味を帯びた香りが顎の奥を刺激した。

そしてまた何やらワシャワシャとビニールを剥き始めた。

千早P「千早は未成年だから、こっちな」
薄いピンク色の液体の入ったビンを持ち上げる。

それを見て千早は少し安心しつつも徐々に場の雰囲気に慣れていった。

普段と変わらない様に接してくれているプロデューサーの優しさが伝わっていた。

自分の為に色々準備している事は仕事の関係上いつもの事ではあったが、
ケーキやシャンメリーを用意してくれたりとプライベートの事でも気を使ってくれる事が嬉しくて堪らなかった。

千早P「あぁ、怖い…飛ぶかな…?」
先端のプラスチックの栓を開けようとして顔を背けている。

千早も釣られて楽しそうに顔を背ける。

千早「きゃっ!」
ポンッと言う音と共に白い気体がフワリと浮かぶ。

千早P「あぁ怖かった」
笑いながら言うプロデューサーを見て緊張で強張っていた千早にも笑顔が零れていた。

空いてるワイングラスに注ぐとシュワシュワピンクの飲料が音を立てる。

そうしてる間に千早はケーキにろうそくを挿していた。

千早「プロデューサー、火を貸してください」

千早P「やっぱり消すの?」
笑いながらプロデューサーは胸のポケットからジッポを取り出した。

千早「はい!」
ジッポを借りた千早はキンッと蓋を外すと火を点けた。

千早P「気をつけてな」
ろうそくが5本火が点けられていく。

ピッと電子音がすると明かりが消える。

ぼんやりとろうそくの薄明かりだけが互いの顔を確認させる。

千早「…」
ゆらゆらと揺れるろうそくの灯を眺める。

千早P「…」
沈黙が流れる。

千早「…」

千早P「…あれ?」

千早「…?」

千早P「何か歌ったりとかしないの?」

千早「何を歌えば良いんでしょうか…?」

千早P「すまん、知らん」

千早「クッ」

千早P「フッ」

千早「アハハハッ」

千早P「あははははははっ!」
くだらない事で笑い転げる。

そんな自然な雰囲気の中でのささやかなパーティだった。

千早P「じゃあ千早の新曲のプロモの完成を祝って」

千早「クリスマスの夜に」

千早P「かんぱ〜い」
千早「かんぱ〜い」

チンッと小さくグラスを慣らして一口飲む。

その後プロデューサーが二人だからと言ってバカみたいに2等分したケーキをそれぞれちょっとずつ食べながら過ごしていると
湯船を注いだ事を機械音声が知らせた。

千早P「おっと。風呂が沸いたみたいだよ、入ってきな」

千早「あ、はい。ありがとうございます。でも…」
千早は言い難そうに言葉を詰まらせた。

千早P「あ、俺は湯船使わないから安心して。バスタオルはその辺の使ってくれて良いし」

千早「いえ、その…」
ひたすら言い難そうにしてる千早の言葉にプロデューサーの勘が働いた。

千早P「ああ、着替えか」
プロデューサーは再びクローゼットを漁ってシャツとスラックスを取り出して千早に渡す。

千早P「こンなもんしかないけど…あ、あとこれだ」
プロデューサーはさっき買ったコンビニ袋からナイロンタオルを取り出した。

それを受け取ると千早に笑顔が戻った。

千早「ありがとうございます。お風呂頂いてきます」
脱衣所も兼ねた洗面所に入るとバスタオルと小さめのタオルが分かり易く置いてあった。

服を脱ぎ畳むとプラスチックのドアを開ける。

湯気が少し浮かんでいてそれほど寒くはなかったものの千早の体は冷えていた。

シャワーを捻って少し待つと徐々に暖かいお湯に変わる。

髪と体を洗い流し湯船に浸かる。

浸かっていると冷えていた身体の芯が徐々に暖まってくるのが感じられる。

あまりの心地よさに千早は鼻歌を歌いだしていた。

千早「…」
湯船に浸かりリラックスしているとふと色々な事が思い出される。

事故の事、二人が過ごした病院での生活

見舞ってくれた仲間達、二人が元通りになった事

これまでの努力、プロモーション作りを成功させた事

そしてこれからの事

そんな事を考えながらう〜っと伸びをすると軽く結っていた髪の毛が解けて一束がフワリと目の前を通り過ぎた。

千早「あ…」
自分の髪からプロデューサーの香りがする。

そう思うと急に恥ずかしくなってきた。

鼓動が高鳴るのが自分でも分かる。

想う気持ちとは言え自分はとんでもない事を言ってしまったのではないか?

居た堪れなくなって湯船を上がる。

バスタオルで身体を拭いて下着を履いて片方は小さなタオルに畳んで挟んだ。

プロデューサーから預かったシャツに袖を通してみる。

千早も女の子の中では小さい方ではなかったが大きすぎて袖からは指しか出なかった。

スラックスを拡げて千早は躊躇った。

明らかに大きい。

折り曲げて履いて尚且つウエストを持っていなければ歩く事もままならない。

悩んだ挙句、スラックスを綺麗に畳んで腰にバスタオルを巻いてバスルームを後にした。

リビングに見当たらないプロデューサーを探して辺りを見回すとベランダで煙草に火を点けていた。

寒気の所為か固いガラス戸を引くとガパッとゴムがはずれる音がした。

千早P「ごめん、気付かなかった。防音だから重いんだ、扉。ってスラックスは?」
驚いて聞くプロデューサーに千早は恥ずかしそうに言った。

千早「いえ、ちょっと大きかったもので…お風呂有難うございました」

千早P「そか…どういたしまして。飲む?」
シャンメリーとグラスを差し出された千早はそれを受け取った。

注がれたシャンメリーを一口飲むと火照った身体には丁度いい冷たさが喉を潤した。

千早「まだ、降ってるんですね」
雪はパタパタを降り続いていて一部の屋根を白く染めていた。

千早P「ホワイトクリスマスってこの事だろうね」
プロデューサーは笑いながら言うと煙を確認して風下に移った。

千早もプロデューサーの隣に手を掛ける。

千早「ここ何年も、12月に雪が降る事なんてなかったのに」

千早P「神様のご褒美かもしれないね、千早が頑張ったから」
とプロデューサーは嬉しそうに言った。

その言葉を聞いて千早はキュッとプロデューサーの腕にしがみついた。

千早「いいえ…」
慈しむ様にプロデューサーの腕に頬を擦る。

千早「プロデューサーが傍に居てくれたから、頑張れたんです。私独りじゃ、きっとだめで…」
そう嬉しそうに千早は語った。

千早P「じゃあ二人へのご褒美だな」
プロデューサーはポンと千早の肩に手をおいた。

千早「そうですね」

千早P「…千早、部屋に戻るぞ。湯冷めするぞ?」
プロデューサーは煙草を消すと千早を連れて部屋に戻る。

千早P「シャワー浴びてくるけど、疲れてるだろうから先に休んでな。ベッドは自由に使っていいから」

千早「で、でもそれじゃプロデューサーは?」

千早P「ソファで寝るよ。千早をソファに寝かせる訳に行かないしね。一緒に寝るのは…ちょと、ねぇ…」
言われて千早の顔がボンッと紅くなる。

そう言う意味だと言われて初めて気付いた事だった。

千早P「じゃあ、行ってきまーす」
プロデューサーの言葉は千早には届かなかった。

さっきの言葉で一気に緊張は高まってしまっていた。

息が苦しくなる程、鼓動が高鳴る。

落ち着こうと思いシャンメリーを流し込む。

千早「っ…ふぅ」
飲み物で少し気持ちを落ち着かせると千早はさっきと同じ様にベッドに腰掛けた。

白く薄いシーツが掛けられていて下敷きは黄色いシーツが被せてあった。

見つめていると疲れが溜まっている所為か少しウトウトしてくる。

自分の部屋とは違って広々としたベッドが真下にある。

思わずベッドに転がってみるとピッと張られたシーツに歪みが出来た。

すーっと深呼吸するとプロデューサーの香りが飛び込んでくる。

そう思うと照れくさくもあり何より嬉しくもなった。

好きな人の香りに包まれている。

プロデューサーが傍に居てくれている、そんな気持ちでいっぱいになっていた。

そんな小さな幸せを感じているとプロデューサーがパジャマに着替えて頭を拭きながら出てきた。

千早P「あれ?まだ起きてたのか」
慌ててベッドから顔を上げるとコクコクと何度も頷いた。

千早P「いやそのままでも良かったんだけど…」
千早はフルフルと首を横に振った。

千早P「ふむ…」
頭を拭きながらプロデューサーはソファに腰掛ける。

ワイングラスに余ったワインを流し込む。

そして再び念入りに頭を拭き出した。

その様子を見ている千早は微笑ましく思った。

見た事の無いプロデューサーの姿がある。

近しい人でしか見られない事なんだと思うと更に嬉しくなった。

そんな視線に気付いたプロデューサーは千早に向き直る。

千早P「どうした?」

千早「フフッ、いいえなんでも」

千早P「むぅ…」

千早「プロデューサー?」

千早P「ん?」

千早「傍に…来てもらえませんか?」
言って恥ずかしくなった。

プロデューサーは答える代わりに立ち上がって千早の隣に腰掛けた。

千早には自然と笑みが零れていた。

隣のプロデューサーの腕を抱き頭を預ける。

千早P「今日はやけに甘えたさんだな…」

千早「やっと、好きな人と二人きりで過ごせるんです。それにクリスマスですから」
言って千早はクスッと笑った。

千早「ずっと…ずっと我慢してたんですよ?」

千早P「ん…ごめん」
プロデューサーはすまなそうに頭をかいた。

千早「傍に居てください。眠ってしまうまで…」
千早がそう呟くとプロデューサーも千早を優しく抱きしめた。

千早P「傍にいる。千早頑張ったからな、ご褒美だな」
プロデューサーも優しく微笑む。

その笑顔を見た千早もプロデューサーにすがりつく様に背中に腕を回した。

千早「知りませんでした。人を好きになる事が…こんなに嬉しい事だったなんて…」
言いながら千早は抱きしめる腕を強めた。

プロデューサーの鼓動が聞こえてくる。

トクン トクン と心地よいリズムを刻んでいる。

さっきとは違い今度は好きな人の温もりまである。

プロデューサーの腕に包まれながら千早は事故の事を思い出していた。

危険な目に遭うたびにこの腕が自分を必ず助けてくれていた。

そしてこの腕が自分に再び歌うチャンスを与えてくれた。

今もその恩恵に包まれている。

そう思うとプロデューサーへの愛しさが止め処なく溢れて来ていた。

千早P「何で今日は歌おうと思ったんだ?」
不思議そうに聞くプロデューサーの胸で千早は話し始めた。

千早「どうしても延ばしたく無かったんです。私とプロデューサーの作品、私の歌手としての第一歩はここから始まるんです」
千早「プロデューサーと私の第一歩。最初から躓くなんて…嫌でした」

千早P「そっか…。ありがとうな」
千早をプロデューサーがきつく抱きしめると千早はクスッと笑いを漏らした。

千早P「…ん?」

千早「違うかもしれません。今言ったのは嘘かも…」

千早P「んなっ」

千早「気持ちの奥でこうなる事を望んでたのかも知れません」
またギュッと抱きつく。

千早「こうして欲しくて頑張ったんだって思うと今なら納得がいきます」
嬉しそうに言う千早の言葉にプロデューサーも納得した様に微笑んだ。

しばらく何も言わないままプロデューサーは千早の髪を撫でていた。

千早P「良く頑張ったよ、ホント。…疲れてないのか?」
プロデューサーの言葉に千早は返事をしなかった。

千早「スーッ、スーッ」

千早P「千早…?」
返事をしない千早の状態を確認しようと身体を離した時、髪を止めていたタオルが解け千早の濡れた長髪がパサッと音を立ててベッドに散った。

千早はだらんと腕を下げ力無く横に倒れこんでしまう。

千早P「うぉっと!」
ベッドとは言え頭で着地しようとする千早の体をかばう為に反射的にプロデューサーは手を伸ばした。

結果的に二人で倒れる形になってしまう。

胸を撫で下ろすプロデューサーに対して千早は衝撃で目が覚めてしまった様に少し寝惚けた声で話し出した。

千早「んっ、すいません。寝てしまったみたいで…」
目を擦りながら離す千早を見てプロデューサーは千早の髪を撫でた。

千早P「無理しなくていいぞ?」
眠い目を擦りながら千早は続けた。

千早「いえ、…大丈夫です」
瞳をパチパチさせてプロデューサーを見つける。

隣に居るプロデューサーの首に腕を回すと千早は微笑んだ。

千早「寝たら楽しい時間が終わってしまいますから」
そんな事を言う千早にプロデューサー千早の髪を梳かしながら笑った。

千早P「子供じゃないんだから…。それに、終わらないだろ?これからも一緒なんだから」
プロデューサーの言葉に千早の胸がキュッと締め付けられる。

「好き」を感じる時の痛み

千早にとっては嬉しい痛みだった。

千早「ほんと、ですか?」

千早P「ホントだよ。いつも千早の傍に居る、またこうして時間も作るよ」

千早「クスッ、嬉しい」
そう言うと千早の腕から一瞬力が抜ける。

千早P「眠そうだな…」

千早「眠いです」
千早は微笑みながら言った。

自分が好きなシャンプーの香りに包まれた子が眠さを堪えて自分に話しかけている。

自他に厳しい千早だからこその特別な可愛さが感じられた。

横になっている千早の頭を仰向けに寝かせる形で千早の体を持ち上げた。

フワリと体が宙に浮く。

そしてゆっくりとベッドの上に戻された。

嬉しそうな顔で睡魔と闘いながら千早がプロデューサーに手を伸ばす。

千早「プロデューサー?」
伸ばされた手をプロデューサーは掴む。

千早P「ん?」

千早「私…もうすぐ、眠ってしまうんだと…思うんです」
いかにも眠そうに途切れ途切れに千早は喋った。

千早P「だろうね」
そんな健気な千早の顔をプロデューサーは見つめていた。

千早「キス…しませんか?」

千早P「…」

千早「あれから、してませんし…眠る、前に…キス…ンッ」
千早が言い終わる前にプロデューサーの唇が千早の薄い唇を塞いでいた。

フワリと柔らかい感触が唇を伝う。

朦朧とする意識の中で千早は感じていた。

千早の求めに応えてくれたプロデューサーの優しさ。

好きな人に包まれる嬉しさ。

口付ける事で感じられた確かな幸せ。

限りある永遠の時が流れる…

プロデューサーの唇が離れようとした瞬間、千早は小さくあごだけを上向け離れかけた唇に微かに口付けた。

そして瞳を閉じたまま小さく呟いた。

千早「おやすみなさい」




翌朝

声「千早?」

千早「んっ…」

声「千早?朝だぞ」

千早「んっ、んー…っ!?」
慌てて飛び起きる。

辺りを見渡すといつもと違う光景が飛び込んできた。

ガラス戸から外を見ると陽は既に昇りかけていた。

千早P「ふふ〜ん」
マグカップを二つ携えてプロデューサーがテーブルに向かう。

千早P「遂に千早を起してやったぞ。案外早かったな」
カタッとガラス製のテーブルにマグカップが2つ置かれる。

千早P「朝はコーヒーで良かったかな?」
プロデューサーの言葉に千早はコクンと頷いた。

そしてのそのそとベッドから降りてくる。

千早P「ん?」
千早は不思議そうな顔をするプロデューサーを見つめていた。

千早「おはようございます、プロデューサー」

千早P「うん、おはよう。千早」
挨拶を交わすと千早は用意されたコーヒーをチビッと飲み込んだ。

ほろ苦い酸味と香りが覚め切っていない目を覚まさせてくれる。

確かに自分は今プロデューサーの家に居る。

夢では無い事が確認出来た。

ほのかな恥ずかしさと嬉しさが徐々にこみ上げてくる。

自然と笑みが零れていた。

プロデューサーと共に過ごせた事。

そしてこれから共に過ごす時間がただただ増えていくだけで減る事は無い。

やっとの思いで踏み出せた第一歩を確かに実感していた。

千早の歌手としてのデビュー。

プロデューサーとの距離。

千早は大きく一歩前進していた。

千早の人生における第2章の第一歩…

千早「プロデューサー!」
プロデューサーを呼ぶと千早は立ち上がった。

千早P「んえ?」
釣られてプロデューサーも立ち上がる。

千早「これからもよろしくお願いします!」

千早P「うん、こちらこそよろしくな!」

千早「フフッ♪」
微笑むと千早はプロデューサーに飛びついた。

千早P「おわっと」
バランスを取るプロデューサー

千早「大好き!…愛してます♪」

千早ストーリーSP −

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