あれからどれ程の月日が流れたんだろう?
二ヶ月位たったのかな
私がアリスと呼ばれて、シロウサギを捕まえてから
そう
親友だと思っていた雪乃が居なくなってから…
おじさんとは仲良くやってると思う!(自信はないけれど)
少し他人行儀になってしまう事は…申し訳ないと思うのだけど…。
凄く仲のいい友達はまだ居ない。
自分の知らない意識がまだ何処かで雪乃を思い出させる。
元々そんなに悲観的な性格じゃないと思ってたんだけど
でも、あんな思いはもうしたくない。
独りでの帰り道にふとそんな事を考えている自分が居て少し驚いたりもした。
それでもあの日の直後に比べればいくらか前向きになったと思う。
ふとよぎる歪みの国での出来事をクスッと一つ笑って過ごせるようになったのがきっとその証拠だ。
私が生み出した世界の住人はもうここには居ない…
「おーい、葛木ー!」
いつもの下校途中、コツコツとなる革靴の音を聞きながら歩いていると後ろから後ろから私を呼ぶ声がした。
立ち止まって振り返ると学生服の男の子が鞄の肩下げを握ったままこちらに向かって走っている。
「っ?」
息を弾ませながら走ってきた学生は同じクラスの生徒だった。
「一ノ瀬くん」
彼は私の隣まで来ると大きく息を吐いた。
「葛木もこっちの道なの?」
軽く息を整えて一ノ瀬くんはいつもの様に屈託無く笑った。
彼は一ノ瀬くんと言って隣の席に座っている男の子だ。
転校したての頃はあまり話さなかったけど、ここ最近話す様になってからはこの町に不慣れな私に色々と世話を焼いてくれる。
銀縁の眼鏡を掛けていてほっそりとした長身でどちらかと言うと文系のタイプだ。
「あ、うん。一ノ瀬くんも?」
「俺もこっちなんだ。この道をずーっと真っ直ぐ行って右に曲がってちょっと行った所」
「ふ〜ん、そうなのねぇ」
私が応えると彼は笑ってる様な呆れた様な複雑な表情をした。
「って、今の説明で解ったのか?」
言われてみれば確かに何の説明にもなっていない気がする…。
でも、そんなに気にはならないのはきっとチェシャ猫の所為だ。
非日常の中で私はチェシャ猫にありとあらゆる物を納得させられてきた。
その所為で解らない事でもとりあえず何でも納得出来てしまう特技が身に付いてしまっていた。
「そう言われると、解らないんだけど…」
私の返事を聞いて一ノ瀬くんはクスクスと笑い出した。
「面白いよな、葛木って。あんまり話さない奴かと思ってたけど話してみると結構話すしな」
そう言って意地悪そうにニヤニヤと笑った。
「なによ、それ…。私は元々話す方よ?」
「そうかぁ?俺が声掛けるまで隣に居るのになんも話さなかったじゃん?あぁ…」
そこまで言うと彼は思い出した様に声を上げた。
「ん?」
「転校初日は話したか「よろしく」って」
そう言って彼は今度はニンマリと笑った。
「はぁ…別に他意は無いのよ」
「猫被ってるとか?」
「猫…猫かぁ、そう言うつもりも無いんだけどそうなっちゃうのかしら」
「ふ〜ん」
私の声のトーンを察知したのか彼は曖昧な返事をして別れるまでそれ以上聞く事はなかった。
コツコツと二足の革靴の異なったリズムと音だけを聞きながら私達は道をただ歩いていた。
「じゃあ俺、こっちだから」
十字路に差し掛かると彼が立ち止まって右の親指で進行方向を指した。
「そう。ごめんね、なんか暗くなっちゃって」
「いいよ、気にするなって」
「うん、ありがとね。気に掛けてくれて」
私が微笑むと彼は不意に目を逸らした。
「ま、まぁ…そそんなに気にしないでいいって好きでやってるんだしっ!?て、俺今何言った…!?」
「???」
「まぁ、とにかくだ。何かあったら俺に言ってよ。力になるからさ」
「うん、ありがとう。それじゃあ、また明日ね」
「おぅ!また明日な」
軽く手を振って歩き出した彼の背中を少しだけ眺めて私は歩き始めた。