恋愛編
説明:学校行く途中〜夏夜に会う前までは一緒です。
   ↑に選択肢を追加するようにしてください。
   また、恋愛編のみメッセージウィンドウを設定します。
   下部に縦5×横30文字分のウィンドウで全てやっていきたいと思います。
   一列目の一文字開けは変わりません。一応まんま書いて行こうと思います。
   台詞の部分は例外として開けません。
   メッセージウィンドウは台詞の時は一列目を名前表示に使います。
   よって台詞じゃない箇所も一列目は必ず開けるので実質は4列になります。
   その通りに書いて行きますのでよろしくです。
   選択肢だけはメッセージウィンドウではなく、画面中央に出るようにしてもらいたいです。
   後々、選択肢で小分けしますがこのテキストではハッピーエンドに向かって直進します。

    時間があるから寄り道でも・・・。恋愛編へ
    まっすぐ学校に向かう。本編へ

のんびりと坂を下っていく。
朝練には間に合わないが学校には十分過ぎる程
余裕のある時間だ。
「くっあ〜ぁ。」
大口を開けて欠伸をする。
いつもの風景、いつもの通学路。
道行く人でさえ同じように感じる。         ここまでは本編と一緒です。



    時間があるから寄り道でも・・・。恋愛編へ
    まっすぐ学校に向かう。本編へ




 まだ時間あるし寄り道でもしようか・・・。
 そう思うと剣志は少し道を逸れて行く。
 そこには何時ものように少し田舎の雰囲気を持った駄菓子屋さ
んが構えていた。


 朝練の無い日は何時もここで餡子玉を買って食べるのが剣志の
日課だった。
 おばあちゃんと軽く挨拶を交わし餡子玉を5つ買ってから外に
出る。

【剣志】
「いただきまーす」


 餡子玉を取り出し口に運ぼうとした時…。

【誰か】
「ち、ちょっとどいてぇ〜〜〜っ!」

【剣志】
「はい?」


 叫び声が耳に入りそちらに視線を向けたその時。
 誰かが突進してくるのが見えた。


 ドンッ!


【剣志】
「ぐえっ!」


 ぶつかってきた誰かは身長が低いかはたまた前傾姿勢で走って
た所為か、剣志のミゾオチに物凄い勢いで頭突きをかました。

【女の子】
「あいだだだだ…」


 ぶつかった衝撃で尻餅を着いた女の子はお尻を痛そうに擦って
いた。

【剣志】
「うぐぅ…誰だ、イキナリ…」

【女の子】
「ご、ごめんなさい。急いでたものでっ!」

【剣志】
「別に、いいから。今度から気をつけてね…て 夏夜じゃねぇか」

【夏夜】
「あれ!剣志っ!?」

 そう言うと夏夜は顔を赤面させた。


 この少女、悠木 夏夜は剣志と同じ学校に通う女の子で幼い頃
からずっと一緒に遊んだりしているいわゆる幼馴染だった。

【夏夜】
「な…なんで、こんな所にいるのよ…」


 目を逸らしながら夏夜が言う。

【剣志】
「俺の日課なんだよ。朝練の無い日はここで餡子玉を買って食べ
 るの。今日は間に合わないから例外って…俺の餡子玉は?」


 餡子玉を探していると普段見慣れない物が目に着いた。


 夏夜のスカートの中に…。

【夏夜】
「何…?何かあったの?」

【剣志】
「夏夜…お前も女の子なんだな」

【夏夜】
「へ?何言ってるの?剣志。頭でも打った?」

 
 今度は剣志が目を逸らして言う。

【剣志】
「…っと、その…。ぱんつ…見えてるぞ」

【夏夜】
「ほえ?」

 
 しばらく何を言ってるのかわからない様子でいた夏夜だったが
自分の姿勢に気付いた瞬間、更に顔を赤くしてスカートで露にな
っていた布を隠した。

【夏夜】
「…………ぁぅ」


 俯きながら小さく何か喋っている。
 恥ずかしさの為か、小さく震えている。

【剣志】
「あの…夏夜さん?」


 俺が言ったと同時に夏夜が立ち上がる。
 その、瞬間…。


バチーンッ!


【夏夜】
「剣志のばかっ!えっち!」


 それだけ言って夏夜は走り去ってしまった。


 頬に滲む熱さを擦りながら何がナンだか解らない様子で剣志は
その背中を見つめていた。

【剣志】
「あおとしろのすとらいぷ…って、いいな。て、何考えてんだ俺
 は!」

 
 そう呟いて剣志は落ちてしまった餡子玉を買い直して自分も学
校に向かって歩き出した。

 
 剣志の通う都立N学園は初等部、中等部、高等部に分かれては
いるが校舎が違うだけで場所は同じ所にある。
 剣志はそこの高等部の2年で剣道部だった。


 学校に着くと用務員のおじいさんに軽く挨拶してから教室に上
がる。

 
 教室に着くがまだ他の生徒の姿は見えない。
 夏夜の鞄だけが机の上にあったがそれ以外の生徒はまだ来てな
いようだ。

【剣志】
「ちっと早く着き過ぎたかな…どうしよ」

屋上で寝る
教室で寝る

【剣志】
「屋上で寝るか…やる事無いし」


 そう呟いて屋上で寝る事にした。
 屋上に着くとやはりそこには誰も居なかった。

 
 太陽の眩しさが寝るには不都合だったが、それでも気にせず剣
志は寝る事にした。
屋上には剣志とその悪友、甘糟 亮一が何処かからかっぱらって
来たベンチが二つ隠してある。


 剣志はその一つを引っ張り出し何の為にあるのか良く解らない
ポンプの傍の日陰に設置して横になった。


 テクテクテク…。

 
 屋上の扉を開ける。
 扉を開けると更に強い日差しが目を通り越す。
思わず目をすぼめてしまう。

 
 辺りを見回しても誰もいない。
 すっと手すりに寄りかかる。
 なんだか自分がマンガの主人公になった様な気分になった。

【夏夜】
「はぁーっ…。今日はツイてないのかも…。朝練遅刻したと思っ
 てダッシュしたら剣志にぶつかるし。ぶつかったと思ったらパ
 ンツ見られるし…。もっと可愛いの履いとけば良かったな…」

【夏夜】
「はぁっ…思わずぶっちゃったし…。それで急いで学校に着いて
 みれば朝練無い曜日だったし…。どーしていつもこうなんだろ
 …、私」

 
 今朝の思い出して赤面したり、自分の薄幸さ に溜息をついた
りと色々急がしい夏夜だった 。

【夏夜】
「素直じゃないのかなぁ、私って。そんな事は無いと思うんだけ
 どなぁ…。素直な子の方が好きなのかなぁ…はぁっ…素直だっ
 たらこんなに苦労しないのかもなぁ…」

 
 自分の不幸を呪いながらがっくりと項垂れてブツブツ言いなが
ら教室に帰る。 

【剣志】
「う…くあ〜ぁ。うむ、何かいっぱい寝た感じだな。なんか得し
 た気分だな、二回寝るのって。得したと言えば今朝のはラッキ
 ーな出来事トップ3入りするかも…今日はツイてるかもな、俺」

 
 大きく伸びをして起き上がり今朝の事を思い出しながら剣志も
教室に向かって歩き出した。


 HRが終わり退屈な授業が始まる。
 何時も通りろくすっぽ聞かない剣志だった。

 
 チャイムが鳴り響いてはっと我に返る剣志。
 物凄く都合のいい体をしていると自分でも思った。

【剣志】
「さて、どうしようかな」

トイレに行く
教室を見渡す
寝る


 教室を見渡すと夏夜の姿が目に入って来た。
 夏夜はいつもの仲良しグループと雑誌を広げて何やら楽しげに
話している。

【剣志】
「仲がいいんだなぁ」


 その瞬間
 フッと夏夜と目が合う。
 だが、夏夜は剣志を一瞥しただけでまた話に戻ってしまった。

【剣志】
「ぬ……。まだ気にしてんのかな」

【亮一】
「なーに見てんだよ、椿」

 
 後ろから声がしてギクリとしたが、聞き慣れた声だった。
 振り返ると亮一が立っていた。

【亮一】
「ういーす、椿」

【剣志】
「相変わらず重役出勤だな」

【亮一】
「ガッコの時間が早過ぎんだよ。俺が世界標準なの」


 そう言って亮一はケラケラ笑った。

 
 この甘糟 亮一は剣志と仲のいい悪友だった。
 腐れ縁とでも中等部から同じ学校腐れ縁とでも言おうかとにか
く何かを企むと亮一と剣志の意見は余す所なく一致した。

【剣志】
「別に何もみてねーよ」

【亮一】
「ふーん、俺には視線の先が悠木に向いてるとしかみえないんだ
 けどねぇ。ま、そーゆー事にしといてあげようか」

【剣志】
「だから、違うって言って…」

【亮一】
「はいはい。解りましたよ。じゃあ、俺用事あるから」


 やれやれと言った感じで両手を上げた亮一だったがすぐに歩い
ていってしまった。

【剣志】
「まったく…何、勘違いしてんだかっ!…」


 そんな事を言いつつも自分がでムキになってる事に気付いてい
ない剣志だった。

 
 4時限目まで難なく過ぎていく。
 途中、ボケッとしていた剣志に気付いた美月先生がチョークを
投げたが避けて後ろの亮一に当たった以外、特に変わった事は無
かった。

【剣志】
「飯だーーーーーっ!今日は物凄い腹が減ってるっ!何故だっ!
 ぼうやだからさ…。そうだ、ぼうやだからだーーーーーっ!!
 立てよ、国民!いざ、購買へっ!」

 
 独り言で盛り上がる剣志を皆が冷めた目で見つめているのも気
にせず剣志は購買へと直滑降だった。

【剣志】
「うむ!大漁大漁。さて問題は何処で食うかだなぁ。屋上、中庭
 、教室…。ん〜」

いい天気だし屋上で食べる
いつも通り中庭で食べる
たまには教室もいいかも

【剣志】
「日光浴しながら、飯を食う。これ自然の摂理!じゃ、屋上に行
 きましょ」

 
 いつになくハイテンションのまま剣志は屋上へと急いだ。


 屋上は朝にもまして強くなった日差しと湿気で予想以上に暑く
なっていた。

【剣志】
「ま、まずったかな…。ま、ベンチ出せばいいし日陰もあるしい
 っか。一人で食えるのはここしかないし」


 ベンチを出して朝寝ていた場所に設置して昼食を始める。


 パタンッ


【剣志】
「むぐむぐ…ん?」


 気になって音のする方に目を向けた。
 この時間に屋上に来る可能性があるとしたら亮一くらいだろう。


 しかし、剣志の予想は大幅に外れていた。
 入って来た人物は乾いた風にスカートをなびかせていたからだ。

【夏夜】
「…っ!?誰?」

【剣志】
「お…おれ…」

【夏夜】
「け…けんじっ?」

【剣志】
「おう…夏夜もここで昼食か?」


 夏夜は少しバツが悪そうに答えた。

【夏夜】
「う…うん、けど…いいや。教室で食べるよ」

【剣志】
「なんで?ここで食えばいいじゃん」

【夏夜】
「剣志も一人で食べたいから来たんでしょ? 私も同じ理由だか
 ら…」

【剣志】
「ん〜俺は別に構わないんだけどね。夏夜がいいって言うなら止
 めないけど」

【夏夜】
「剣志なら…別に…いいんだ、私は…。一緒で邪魔に…ならない
 かな?」


 少しモジモジしながら夏夜が言う。

【剣志】
「気にすんなよ、一緒に食おうぜ。初等部以来だし」

【夏夜】
「う、うん」


 夏夜が遠慮がちに少し距離を取って俺の横に座る。
 お弁当を広げるとウインナーやら卵焼きやらわりと綺麗に盛り
付けてあった。

【剣志】
「ちっさい弁当箱だなぁ…。足りるのか?それで。」

【夏夜】
「これ以上は食べられないもの。お腹いっぱいになったら眠くな
 っちゃうから」

【剣志】
「ふーん、そっか。小食だったんだなぁ」

【夏夜】
「う〜ん。女の子って皆これくらいだと思うんだけどなぁ」

 
 そんなやり取りをしながらの食事は久しぶりだった。
 この所、同年代の女の子と一緒に食事した事のなかった剣志に
は新鮮だった。


 また、それは夏夜にも同じ事だった。
 学校のなかでも二人きりで昼食を取ると言うのはそれこそ恋人
同士の二人位なものだった。


 剣志がパンを6つ食べ終わるのと夏夜が小さなお弁当を食べ終
わるのはほぼ同時だった。
 夏夜は「ごちそうさま」と言って箸を合わせ小さくお辞儀した。

 
 食事を終えたもののまだ大分時間は余っている。
 亮一ならタバコを吸って時間を潰す所だが剣志にその習慣は無
い。

【剣志】
「さて。どーすっかな…。時間はあるんだけどなぁ…。」


 そんな事を言ってると何やら夏夜がごそごそとポケットから取
り出した。

【夏夜】
「おやつ食べる?」


 そう言うと夏夜は細長い棒状のお菓子を剣志にさしだした。
 手に持ってる箱にはピンク色の字で”ぽ○きー”と書いてあっ
た。

【剣志】
「…いや、いいです…。溶けてないの?それ」

【夏夜】
「うん、さっきまで食堂の冷蔵庫に入れて置いてもらってたから」

 
 夏夜はポツポツお菓子を口で折りながら一本づつ食べている。

【剣志】
「そんなの食べてたら太るぞ」


 その言葉に一瞬止まる夏夜だったがすぐに手と口は動き出した。

【夏夜】
「太んないもん。運動してるから…」


 そう答えるもののやはり少し不安な様だ。


 少しの間、会話が途切れた。
 剣志が缶のお茶をクピッと飲む音と夏夜がお菓子をポツポツ折
る音以外の音は無かった。


 夏夜が不意に口を開く。

【夏夜】
「け、剣志ってさ。彼女とか…作んないの?」

【剣志】
「ブーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」


 あまりの突拍子な質問に飲んでいたお茶を吹き出す。

【剣志】
「な、ナンだよ。いきなり…。あ、虹できた」

【夏夜】
「ちょっと…気になったから。…で、どうなの?」


 どうやら気になってるのは”ちょっと”じゃないらしい。

【剣志】
「彼女いないのは知ってるだろ…。ずっと学校一緒なんだから…」

【夏夜】
「クラスが違った事だってあるじゃない。」

【剣志】
「んまぁ、そうだけど。作らないと言うか作れないと言うか…ね
 ぇ?」

 
 誰に聞くでもないが剣志はそう答えた。

【夏夜】
「へぇ、そうなんだ。作ればいいのに」


 ポツポツとお菓子を食べながら夏夜は素っ気無く答える。
 あくまで素っ気無く…。

【剣志】
「作れるなら作ってるよ…。そう言うお前はどうなんだよ?」

【夏夜】
「私は………………いないよ。」


 夏夜はそう言うと地面に視線を這わせる。
 その瞳はシャ○専用の赤い三倍の速度を追いかけるかの様に忙
 しなく動いていた。

【剣志】
「ふーん、付き合ってないけど気になってるってわけか」

【夏夜】
「な!?なんでそれをっ!」


 叫んで剣志の顔を見たとき気付いた。
 術中にはまってしまった事に…。
 剣志はにやにやしている。

【剣志】
「へぇ、なるほどねぇ」


 優越感に浸りながら剣志は言う。
 今まで気付かなかったがこう言う系統の秘密を知ると言うのは
心地のいいものだった。

【夏夜】
「あうぅ………………」


 夏夜は真っ赤になりなって俯きながらお菓子を食べている。

【夏夜】
「ポツポツ………………………ぁ」

【剣志】
「ん?どうかした?」

【夏夜】
「ねぇ…最後の一本なんだけど、どうする?」

【剣志】
「…食べさせたいの?」

【夏夜】
「なんか一人で食べてるの悪い気がして…」

【剣志】
「そんなもんかねぇ…」

もらっておく
もらわない

【剣志】
「じゃあ一本頂戴」

【夏夜】
「はい!まだキンキンだよ」

【剣志】
「うい……………………あ」

【夏夜】
「ほえ?なんかへん?」

【剣志】
「あ…いや(そういえばこのお菓子って…)」

 
 そうこのお菓子には定番のゲームがある。

提案するだけでも…
断られるの怖いし…

【剣志】
「うむ…試すだけならタダだし」


 そう言うと剣志はお菓子のチョコの無い部分を咥えて夏夜に顔
を向けた。

【夏夜】
「な…何よ?」

【剣志】
「おひ、こい(おし、来い)!」

【夏夜】
「そ…それって…」

【剣志】
「うん」

【夏夜】
「な、ななななな何言ってんのよ!」


 夏夜は真っ赤になりながら叫んだ。

【剣志】
「ちぇ、駄目かぁ。誰も居ないからOKかなって思ったんだけど
 な」

【夏夜】
「当たり前でしょっ!返してっ!」


 剣志はぽ○きーを取り上げられてしまった。

【剣志】
「せっかく貰ったのにぃ…」


 そんなにショックでは無かったものの剣志は大きく落胆して見
せた。

【夏夜】
「あんなことするから。……………どうしても食べたいの?」

【剣志】
「うん…」


 夏夜は迷った。


 あげたらまた同じことを言い出して今度こそ逃げ切れないんじ
ゃないだろうか。
 もう一度渡すと言うことはそれを無言で肯定してしまうのと似
ている様なものだ。

 でも、剣志がただふざけてただけだとしたらあげないのは少し
可哀相な気もしないでもない。

 しかし、それより先に…。

 前者だとしてそのままキスされてしまったらどうしよう…。
 と、よからぬことを想像してしまっていた。
 でも、少しならいいかもという好奇心も同時に芽生えていた。

【夏夜】
「ん〜〜〜〜〜」


 散々思い悩んだ結果。

 
 チョコの部分を咥えて剣志に向き直る。

【剣志】
「あの………夏夜さん?」

【夏夜】
「はい、あげる」

【剣志】
「っと、その…」


 意外な展開に剣志は言葉を詰まらせた。
 断られたと思っていた提案を形こそ違うが実現しようとしてい
る。

【夏夜】
「言っとくけど…絶対、折ってよね」

 
 あくまで建前である。
 そう言って夏夜は恥ずかしいのか瞳を閉じた。


 ゴクリと唾を飲み込む。


 「ん・・・」と言う感じで口唇を突き出す夏夜の姿はそれだけ
で可愛らしかった。

 
 少し戸惑いながらぽ○きーの反対側に口をつける。
 体重を預けた片手にベンチが軋む音がした。


 ポツポツとゆっくり小さくぽ○きーを折っていく。

【剣志】
「(夏夜って…やっぱり可愛いかも…)」


 極々僅かだが確実に距離は詰まっていく。
 残り半分まで来た時、剣志は言いようも無い衝動に駆られた。

【剣志】
「(そのまま進んじゃっていいものか…。でもこうしてるって事
 はそれも有りな訳で…。もしそうじゃなかったとしたら、それ
 はかなりまずい事になるわけで…。父さん、僕は今、凄く、葛
 藤している訳で…)」

ここら辺で止めておく。
そのまま進んじゃう。

【剣志】
「(ここまで来たらもう引けないかも…)」


 ポツポツと小さな音が近づいてくる。
 それと同時に瞼の上から通る日差しが徐々に遮られていく。


 羞恥で頬が紅潮しているのがハッキリ解る。
 息が苦しい。
 そろそろ終わらないものだろうか?
 胸の高鳴りが聞かれてしまいそう…。


 剣志は目を開けているのだろうか?
 もしかして見つめられているのだろうか?
 それは凄く恥ずかしい。


 閉じた瞳の暗がりが広がりきる。
 ポツポツと言う音は聞こえなくなった。

【夏夜】
「(お…終わった?)」


 恐る恐る瞳を開く。
 その途中、ぼやけた剣志の顔が間近に見えた。
 緊張で息ができない。


 瞳が開ききるその時。


 剣志は目を閉じて最後の一口を齧った。

【夏夜】
「んっ!?」

 
 口唇が重なる。
 柔らかい感触。
 イチゴチョコの甘い香り。


 キス…!?
 そう気付くのに数秒かかった。


 ほんの数秒だったがそれはお互いに何分にも何時間にも感じら
れる時間帯だった。


 ゆっくりと口唇が離れる。
 夏夜は夢見心地の様にぼやぁ〜っとしていた。

【夏夜】
「………ぁ」


 声を出して我に返ったのかそっぽを向いて顔を隠す。

【剣志】
「…………あ、あのさ」

【夏夜】
「あ、私。先に戻るねっ!」


 そう言って夏夜は逃げる様に去っていった。


 ポツンの一人残される剣志。
 今更になって恥ずかしくなったのか赤面して頬をポリポリ掻く。

【剣志】
「わ、悪い事したかな…?」

 
 思いがけない夏夜の行動と可愛さに戸惑いを隠せない剣志だっ
た。
 何かが確信に変わる。
 そんな思いがした。

 
 あんな事があったとは言えもう随分経つがドキドキが未だに止
まらない。

【剣志】
「………や、やばいかも…」


 5時限目を告げるチャイムが鳴る。
 しかし、すぐには行動出来ない剣志がそこにあった。


 5、6時限目がろくすっぽ頭に入らない。
 いつもとは違った理由だ。
 今は夏夜の存在が焼き付いていて、他の物を受け入れる余裕が無い。


 放課後になる。
 他の生徒は部活やら帰宅やらの準備を始めている。
 夏夜も例外ではなかった。


 剣志はぼんやりと何処とも言えない外を眺めていた。

【剣志】
「はぁっ…どーしましょ」

もうちょっとこのまま
部活に出る
まっすぐ帰る

【剣志】
「もうちょっとこのままいるか…」


 夕日を眺めたり、机に突っ伏したり、ぐるぐる歩き回ってみた
りしたが考える事は何一つ変わらなかった。


 ガラララララッ



 突然、教室の戸が開いた。
 見てみるとそこには担任の春日 美月が立っていた。

【美月】
「ん?椿君何してるの?部活は?」

【剣志】
「ん〜今日は休み〜。…にする」

 
 剣志は机に突っ伏したまま答えた。

【美月】
「休みにするって…。何かあったの?」

【剣志】
「なんもな〜い。」

【美月】
「そんな調子でなんもないって言われても説得力無いわよ…。」


 そう言って美月は剣志の前の席に腰掛けた。

【美月】
「何かあるんでしょ?お姉さんが答えてあげるから教えなさい」

【剣志】
「…お姉さんて歳じゃない」

【美月】
「ん?何か言った?椿君」


 美月は笑顔でコメカミ青筋を立てながら剣志の頬を力いっぱい
抓った。

【剣志】
「いひゃい!いひゃい!ごめんなはい!離しへ!言うはら!」

【美月】
「あらぁ?まだ言うの?これはっ!」

 
 美月は抓る手に捻りを加えた。

【剣志】
「ちらう!ちらう!離しへ!もういいまへんはら!」

【美月】
「それでよろしい。で、何があったのかなぁ?先生それが知りた
 いなぁ」


 熱を持った頬を擦りながら剣志はこの歳になって恋愛の相談を
すると言う行為に少し気が引けたが、観念して話す事にした。

【剣志】
「と…言う事なんですが…」

【美月】
「………」


 美月は俯いたまま拳を上げてグッと握っていた。
 思いっきり握っているのか微かにグーが震えている。

【剣志】
「あの…美月先生?」


 美月は握っていた手で机をバーンと叩いた。

【美月】
「かぁーっ!青春ねぇっっ!」

【剣志】
「先生…おじさんくさいよ」

【美月】
「いいわねぇっ!それぞ青春よねっ!」


 美月はこう言う相談を待っていたかのようにかなりハイテンシ
ョンになっていた。

【剣志】
「ねぇ…聞いてる?」

【美月】
「でもごめんなさい、椿君。先生はその悩みの道標にはなれない
 のよっ!」


 そう言いながら美月は自分で自分を抱いて悲しそうな顔をして
いる。

【剣志】
「聞いてないよね?絶対聞いてないよね?何で道標になれないの
 ?」

【美月】
「あぁ、解って椿君。思い悩む事こそ青春なのよっ!大人になっ
 て恥ずかしながらに思い出せる様になった時に解るわっ!」


 一見、応えたように見えるがたまたま話が噛み合っただけだっ
た。

【剣志】
「聞いちゃいねえよ…先生って幾つだっけ?」


 美月がピタッと止まる。
 そしておもむろに拳を剣志のコメカミに当ててグリグリと回し
た。

【美月】
「先生の歳を聞いてどうするの?椿君」

【剣志】
「イダイイダイ!聞こえてんじゃないかよ!」

【美月】
「そうねぇ。恋愛かぁ、…淡い響きよねぇ。」

 
 コメカミから手を離して美月は言った。

【剣志】
「”好き”とか深く考えた事無いんだけどこーゆー始まり方って
 どーなのかなって」

【美月】
「そんな細かい事気にしないでいいんじゃないかなぁ?言って現
 せる物じゃないから。変な気回す前に素直に認めて信じて進ん
 じゃえば?」


 美月の言った事は恐らく自説なのだろう。
 しかし、剣志も美月の簡潔なものの捉え方は好きだったので、
何となくだけど納得できた。

【剣志】
「先生って簡単に答えるよね…いつも」

【美月】
「そう?ん〜単純なのかなぁ、私って」

【剣志】
「でも凄く解りやすい。的を射てる気がする。ありがと。なんか
 楽になった気がするよ」

【美月】
「お役に立てたのなら嬉しいわ。先生としてね。クスッ」


 美月は小さく笑うと立ち上がった。

【美月】
「それじゃ、がんばんなさいな。応援してるからっ」


 そう言うと美月は満足そうな顔して教室から出て行った。

【剣志】
「…ん?そう言えば何で先生教室にきたんだろう。…まぁいっか」


 時間はもう18時半。
 既に部活も終わってる時間だ。

【剣志】
「帰ったら電話でもしてみるかな…」


 まだ明るさの消えない夏の夕方。
 剣志は一人呟いて帰路に着いた。


 夕飯を食べ終わる頃。
 時刻は20時を回っていた。


 連絡簿を取り出し夏夜の電話番号を探す。
 軽く緊張しながら、微かだが見覚えのある番号を押していく。

【電話の声】
「はい、悠木ですけど。」


 受話器の向こうから女性の声がする。
 夏夜の声ではない。

【剣志】
「あ、夏夜のお母さんですか?どうも、剣志です」

【夏夜の母】
「あらぁ、剣志君お久しぶりねぇ。調子はどうなの?」

【剣志】
「あ、はい。一人暮らしも順調で問題ありませんよ」

【夏夜の母】
「そう、それなら良かったわ。夏夜に用事?」

【剣志】
「えぇ、夏夜と代わってもらえますか?」

【夏夜の母】
「それがねぇ、あの子まだ帰って来てないのよ。いつもなら帰っ
 て来てる時間なんだけどねぇ。部活が長引いてるのかしら?」


 その言葉に剣志は違和感を覚えた。
 おかしい。
 部活は遅くても19時には終わる筈。
 着替えて帰っても夏夜の家まで1時間は掛からない。

【剣志】
「そう…ですか」

【夏夜の母】
「何か急用かしら?伝言なら伝えておくわよ?」

【剣志】
「いえ、別に急用じゃないので。明日、学校で話しますから」

【夏夜の母】
「そっかぁ。ごめんなさいね。」

【剣志】
「いえ構いません。こちらこそ遅くに電話してすいませんでした
 。それじゃ、おやすみなさい」


 そう言って返事も聞かないまま剣志は受話器を置いた。

【剣志】
「おかしいな…。まだ帰ってないなんて。何か嫌な予感がするな」


 剣志の嫌な予感は親切なことに結構当たる。
 亮一と自分が認める程度ではあるが。
 もう少し言えば亮一の彼女である 葵 瑠璃程的中するもので
もない。

【剣志】
「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん」

気のせいだろう。
探しにいく。

【剣志】
「唸ってても始まらない。探しに行こう」


 軽く服を着替えて外に出る。

【剣志】
「何処にいるんだろうな…」

学校
近所

【剣志】
「可能性があるのは…学校か」

 
 学校まで走れば十分と掛からない。
 剣志は急いで学校に向かった。
 7月とは言え夜はまだ少し肌寒かった。


 学校に着くと剣志は辺りを見渡した。
 当然の事ながら辺りに人がいる気配は無い。

【剣志】
「ここだけじゃ解らないな…」

屋上を探す
教室を探す
弓道練習場を探す

【剣志】
「最後に夏夜が行ったのは部活があったから…弓道練習場か。」

 
 駆け足で弓道練習場に向かう。
 しかし、予想に反してそこにも夏夜の姿は無かった。

【剣志】
「くそっ!何処にいんだよ、あいつは」


 考えれば考える程、悪い方向に向かってしまう。
 なんだか無性にイライラしてきた。

【剣志】
「ここにもいないとなると…後は近所の街中か」


 そう思って走り出そうとした時。
 ふと体育館の中から明かりが漏れているのが目に着いた。

【剣志】
「ん…こんな時間に…まさか!?」


 通風孔から覗くとやはり中には明かりが灯っていた。
 消し忘れかと思ったが中を注意深く見渡すと一人の少女が倒れ
ているのが見えた。

【剣志】
「あの馬鹿!おーーーーーーーーーーーいっ!」


 大声で呼んでみたが返事は無い。

【剣志】
「おーーーーーーーいっ!おきろーーーーーーーーーっ!」


 何度も呼んでみたが起きる気配は無い。
 いいも知れない嫌な予感がよぎる。

【剣志】
「おいおい……………嘘だろ!?」

【剣志】
「…くそっ!」

 
 急いで職員室に向かう。
 職員室に明かりは灯ってない。
 戸を開けようとするが鍵が掛かっているらしくガコガコと戸が
気持ち斜めに動く程度だった。

【剣志】
「ああ、もう!こんな時にっ!」


 校舎から出て職員室の窓の前に来る。
 落ちている石で窓を割った。


 ガシャーンと派手な音が鳴ったが今はそんなことはどうでも良
かった。
 窓から手を伸ばして鍵を開ける。


 ガラスの破片に気を付けながら中に入り体育館の鍵を取ってか
らまた窓から出る。

【剣志】
「頼む!…間に合ってくれ!」

 
 慌てていた為か上手く鍵を差し込めなかったがどうにか差し込
むと鍵を回し力いっぱい思い扉を開けた。
 倒れている少女に走り寄る。

【剣志】
「おい!かやっ!しっかりしろっ!おい!」


 良く見ると夏夜はすやすやと息をしていた。
 寝ているだけにも見える。

【剣志】
「お…脅かすなよ…はぁっ」


 安堵の息が漏れる。
 なんだか一人で勘違いして色んな事を考えて心配してた自分が
馬鹿らしく思えた。


 そんな気持ちも余所に夏夜は気持ち良さそうに眠っている。

【剣志】
「こいつ…すやすや寝やがって…ムカツクな、なんか」

強く起こす
優しく起こす
起こさない

【剣志】
「気持ち良さそうだけど…このままにしてはおけないしな…」


 夏夜の寝顔はとても安らかだった。
 起こすのが悪い事の様な気さえするがそれでも方って置けない
ので剣志はその心地を壊さない様に優しく起こしてあげる事にし
た。

【剣志】
「おい。夏夜?起きろ」

【夏夜】
「………ん」


 反応が返って来たのでもう少しだと思い軽く夏夜の頬を突付い
たり、抓ったりする。

【夏夜】
「ん〜…………ほえ?」

【剣志】
「起きたかなぁ?」

【夏夜】
「ん〜…ゆめぇ?あぁ、けんじだぁ〜」

 
 夏夜は未だ夢見心地なのか、喋り方も瞳も虚ろだった。

【剣志】
「…夏夜さん?」

【夏夜】
「んふ〜けんじ〜」


 そんな調子のまま夏夜は剣志の首の後ろに手を回した。

【剣志】
「こら、いい加減目を覚ませ」


 後ろ手に回された手を利用して抱きかかえる様に上半身を起こ
させる。
 すると、夏夜はキュッと強く抱きついた。
 そして顔を近づける。


 やはり夏夜の瞳は半分閉じている。

【剣志】
「か…かや…!?」

【夏夜】
「……………………すき」

【剣志】
「あの……なんて言ったのでし、んむっ!?」


 夏夜は呟くと瞳を閉じて剣志の両頬に手を添えて口唇を重ねた。
 その勢いに剣志は押し倒されてしまう。
 夏夜の手が思いのほかひんやりとしている。

 
 長い…昼食の時のような小鳥が餌を啄ばむ様な口づけとは違う。
 何分もそうしていた。
 剣志が動けなかったのもある。
 主導権は夏夜が握っていた。


 高鳴る鼓動が感じ取れてしまうほど密着した距離でのキス…。
 言いようも無い緊張感が走る。

【夏夜】
「ん…………んふっ。…………すきだよ、けんじ………」


 夏夜は満足したのかしばらくして淡い微笑みを浮かべて剣志の
胸に顔を埋めた。
 幸せそうにまた瞳を閉じて寝息をたてている。
 

 突飛な夏夜の行動にしばらく動けないでいた剣志だったがふと
我に戻り本来の目的を思い出す。

【剣志】
「あ!おい、こら!夏夜っ、起きろって言うに!」


 今度こそ本気で起こそうと少し強めに夏夜の頬を叩く。

【夏夜】
「ん〜〜〜〜〜っ!」

 
 辛そうに顔をしかめていた夏夜だったが剣志のしつこさに負け
てついに目を擦りながら起き上がった。

【夏夜】
「……………けっ…………剣志!?」


 そう言うと夏夜は飛び上がって剣志から離れた。
 赤面してそっぽを向いてしまう。

【剣志】
「やっと起きたか…」

【夏夜】
「あの…なんで剣志が…ここに?」

【剣志】
「なんでって…おまえんちに電話したらまだ帰ってないって言う
 から……ちょっと心配になって…学校に戻ってみたら、おまえ
 が体育館で寝てたんだよ」

【夏夜】
「あ……」

 
 恥ずかしそうに指を弄る夏夜。

【夏夜】
「心配……してくれたの?」

【剣志】
「当たり前だろ!?こんな時間まで帰って来てないなんて聞けば
 誰だって心配になる」

【夏夜】
「そっか…そうだよね。誰だって…心配するよね」


 そう言うと夏夜は少し悲しそうな顔をした。
 そして、肩を竦める。

【夏夜】
「…………………………クシュン」


 夏夜が小さくクシャミする。
 夏とは言え、夜に普段陽の当たらないだだっ広い体育館で寝て
いた所為だろう。

【剣志】
「ったく…しょうがないな。こっち来いよ。」

【夏夜】
「え……?」

 
 良く聞こえなかったのか夏夜は瞳をパチクリして聞き返す。

【剣志】
「こっち来いって言ったの」

【夏夜】
「う、うん」


 恐る恐る剣志の前まで来るとちょこんと座ってまた俯いてしま
う。

【剣志】
「おし、じゃあ次はあっち向こう」


 剣志は夏夜が向いているのとは正反対の方向を指して言った。
 少し首を傾げた夏夜だったが言われた通りにして座りなおす。
 それを見届けた剣志はキュッと夏夜を抱きしめた。

【夏夜】
「あ………………」

【剣志】
「ほら、手が冷たいと思ったらこんなに冷えてる…」

【夏夜】
「うん……………剣志の手……あったかい」


 更にギュッと抱きしめる腕に力を込めた。
 夏夜は剣志の手に自分の手を当てていた。

このまま告白しちゃおうか…
このままでいようか…


 少しの沈黙…。
 耐え切れなくなって剣志が口を開いた。

【剣志】
「なぁ、夏夜。もうあんま心配かけさせんなよ」

【夏夜】
「うん、ごめんね…。もう皆に迷惑かけない様にするよ…」

【剣志】
「”皆に”じゃねぇよ。”俺に”だよ」

【夏夜】
「え……」


 夏夜の心臓がどくんと高鳴った。
 剣志はさっきと言っている事が違う。
 その言葉は夏夜にとっても剣志にとっても都合の良い言葉だっ
た。

【剣志】
「なぁ…さっき言った事。俺、信じてもいいのかな?」

【夏夜】
「え?」


 夏夜、一瞬ドキッとした。
 剣志の言っている意味が解らなかった。
 さっき言った言葉と言われても大した内容の会話はしていない。
 夢の中でしか…。

 
 そう、夢の中でならいくらか大胆な事はしたかも知れない。
 だけど何故、剣志はそれを知っているのだろう?
 いや、知っている筈は無い。
 だってあれは夢だったのだから。

【夏夜】
「な……何の事?」


 詰まりそうな息を吐き出してそれだけ聞いた。
 それが、精一杯だった。

【剣志】
「さっき…お前が、その………俺のこと…好きだって……」

【夏夜】
「え……それって、だから……その」

【剣志】
「覚えてないの?」


 覚えてないも何も無かった。
 夢の内容はハッキリと覚えてる。
 ここ最近見る様になった夢の感覚。
 剣志と一緒に過ごす夢。


 だが、剣志は自分しか知り得ない夏夜の夢の内容を示唆してい
る。
 そんな事、夢の中じゃなきゃ恥ずかしくてとてもじゃないが言
えない。

【夏夜】
「で、でも…。それは…その…」


 気が動転してしまってしどろもどろな会話しか出来ない。
 息も驚きと緊張の為かあがってしまっている。
 声も半分、涙声だ。

【剣志】
「まぁ、覚えて無くてもいいや。俺の気持ちは変わんないから。」

【夏夜】
「…………………………」

 
 夏夜は待った。
 YESの期待もNOの不安もどちらも100%だったけど。
 それに押しつぶされて逃げ出してしまいそうだったけど。
 剣志の気持ちを知りたくてただ、その続きを待った…。

【剣志】
「俺も……お前の事、その…………好き……みたいだから……。
 だから、あんま”俺に”心配かけさせんなよ…」

【夏夜】
「…う………そ……」


 知らない内に涙が頬を伝った。
 ハッキリと聞いたのに信じられない自分がいた。


 涙に濡れた顔は見せたく無かったけれどどうしても剣志の顔が
見たくなった。
 もう一度確認しようと思った。

 
 違う、もう一度同じ言葉を聞きたかった。
 だから恥ずかしいけど剣志の方を向いた。

【夏夜】
「ねぇ……よく………聞こえなかった。」

【剣志】
「恥ずかしいからもう言わない!」


 そんなぁと言う表情で夏夜は剣志を見つめた。
 夏夜の瞳からは大粒の涙がポロポロと溢れ出していた。

【剣志】
「わかった!言う!言うよ…。っと…俺も……お前の事が好きだ
 って言ったの!」


 そう言うと剣志は照れ隠しの為かそっぽを向いて頬を掻いてい
る。

【夏夜】
「あう……ヒック……うく。ワタシも……剣志が……えぐ…好き
 です!」


 それだけ言うと夏夜は剣志の胸に顔を埋めた。
 しかしさっきの様な震えは無い。
 ただ、安心しきってしまった為か涙は止まらなかった。
 だから、好きな人の胸で思い切り泣いた。

【剣志】
「ったく、好きだって言ってんだから泣くなよな」


 剣志はそう言いながらも夏夜の頭を撫でた。
 もう、不安を…自分の為に不安を感じさせる事も無い。
 ただ傍に居てこうやって抱きしめてあげればそれでいいのでは
ないか?

【夏夜】
「えぐ…だってぇ、嬉しいっ…だもん!」

【剣志】
「これからも、よろしくな」

 
 そう言い終えると剣志はやっと微笑みながら夏夜を見つめてく
れた。


 夏夜も涙を拭って一息つくとこれ以上無い笑顔を剣志に向けた。

【夏夜】
「ワタシこそ、よろしくお願いします!」



pl

【夏夜】
「・・・きて」

【剣志】
「…………ん?」

【夏夜】
「おきて……じ」

【剣志】
「………気のせい気のせい」

【夏夜】
「起きて・・・剣志!」

【剣志】
「………後5分」

【夏夜】
「起きろー!ケンジーっ!起きないと刺すよっ!」

【剣志】
「おはようございます!」


 朝一番の台詞。
 ここの所いつも同じ台詞。
 パッチリした眼で目覚ましを手に取る。


 6時

【夏夜】
「朝ごはん食べよっ!」


 学生服にエプロン。いつもと変わらない風景。
 アイロンの掛かったワイシャツ、
 プレスの効いたズボン。
 コーヒーの香りとトーストの焼けた香り。


 どちらも綺麗に平らげる。

【剣志】
「ご馳走様です。」

【夏夜】
「お粗末さまー。」


 着替えて鞄を手にする。
 玄関まで出ていつもの台詞。

【剣志】
「先に行っちゃうぞー?」

【夏夜】
「ち、ちょっと待ってぇ!」


 こちらもいつもの台詞。
 外に出るとギラギラと言う形容がピッタリな程太陽は照り付け
ていた。


 また一日が始まる。


 いつもと変わらない。


 大して差の無い日常が俺達には戻ってきていた。


 夏夜という存在以外は


 差の無い・・・。



Fin

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