「みんなは雑魚を掃除してくれ。その間に…俺が叩く!」
再び全員が頷くと同時に散開する。
「あらあら、結構頑張るのね。無駄な事なのに。」
エイリアンと呼ばれるモノは大きな月に向き直った。
今だ!
雑魚を踏み台にして一気に飛び上がる。
「くっ。」
大きく木刀を振りかぶる。
距離は十分、後は振り下ろすのみ!
その瞬間
「考える事が見え見えね。可笑しくなっちゃう。」
振り下ろした木刀を受け止められる。
そしてそのまま地面に叩きつけられる。
「ガハッ!…・」
「椿!?」
「剣志!?」
「剣志殿!?」
「せんぱい!?」
馬鹿…こっち…向いてんなよ…。
「しまっ!」
全員ほぼ同時押さえ込まれる。
「馬鹿ねぇ、本と。ンフフフフフッ。」
そう言うとエイリアンは俺の左肩目掛けて降りてきた。
「卑怯な真似をした罪を悔いなさいっ!」
…・ゴキンッ
「ぎっっっっっっっっっっっっあああ!!!」
間接が外れる鈍い音と痛み。
「ンフフッ、いい音。もう片方もイって貰おうかしら。」
「そうはさせないわっ!!」
「何ッ!?」
エイリアンが振り向く前に夏夜の放ったモノは全て背中に突き刺さっていた。
「クッ!小娘がっ!」
エイリアンが振り向き様に腕を振るうとかまいたちが夏夜に斬り傷を刻んでいく。
「きゃあああっ!」
吹き飛ばされた夏夜はそれでも立ち上がろうとする。
「わ…たしだって・・好き…な人くらい…ま・・もるんだから」
そう言って膝から崩れ落ちる。
くそっ…くそっ!
木刀!…木刀は何処に?
幸いにも木刀はそう遠くには落ちていなかった。右手を伸ばせば取れる距離。
珊瑚が投げたであろう即席火炎瓶の炎を除けば…。
倒れた夏夜、身動きの取れない四人。
辺りは悲惨な状況だった。
くそっ…くそっ…くそっ!
ここまでなのか…ここまでなのか!!
半分諦めかけたその時。
何かがエイリアン目掛けて飛んできた。
バシャン。
エイリアンはその液体をもろに被った。
「水遊びがしたいの…?坊や」
……今しかない!
構わず炎の中に手を突っ込んで木刀を掴み上げそれを杖に立ち上がる。
エイリアン眼だけをこちらに向ける。
「まだ動けたのね…」
「あぁ、はぁっはぁっ」
呼吸をするだけで外れた関節が悲鳴をあげる。
「いいわ、後で遊んであげる。」
「いや、これで…最期だ。」
炎を帯びた木刀を突き刺す。
「ぐふっ…」
まだ甘い。
もう一歩に全体重を賭ける。
やがて木刀は張り詰めていた皮を破り内側から外側から文字通り春日 美月を焼いた。
「あ…あぁ…あああ!」
エイリアンが悲痛の声をあげる。
「はぁはぁ、痛いだろ?おまえは、ここにいる全員に…同じことをしたんだぜ?」
炎に包まれても尚、形の変わらない春日 美月…。
彼女は炎の中で小さく微笑んだ。
「あ…はは」
「?…まさか!?」
「あはは、や…ぱり。椿君だー。」
「か…すが…せんせい?」
「えへへー。そーだ…よん。わ…すれちゃった?そ・・なに見た目…変わっちゃったのかな。」
燃え盛る春日 美月の瞳は先程の様な紅さは残っていなかった。
「な…ぜ」
「そ・・れがねぇ。わかんないんだぁ。せん…せいにも…。ほら、やっぱ専攻が…リーダーだから…かな?
な・・かうまく・・言えないんだけど、私を…違う私が…みてる…ゆ・・めを・・みたの。
?…ちが・・なぁ。みてる…かなぁ?」
「…・」
「あ…たしがねっ?椿く・・たちを…いじめてるの・・。でも…さっき…きゅうにっ…ゆめが…さめちゃ・・。
もう…ひとりの、あたしがね?殺されるーって…さけん・・でた。でも・・つば…きくんたちの…なやみのたね・・
があた・・しならしょうが・・な・・かなぁ・・て。」
「そん・・なこと…ない!そんなことない!」
「え・・へへー。やっぱ…つばきく…やさ・・ね。も・・最期・・だから…きちん・・というね?」
「かす・・が・・先生?」
「あり・・が…とう。そして…ごめ…ね。つら・・思い…させちゃって…。きょーし…失格・・だ・・ね?」
春日 美月は炎の中でいっついの涙を流して跡形も無く消えていった。
辺りに残ったのは俺達五人とその戦闘の結果の燃え盛る…
炎だけ…。
大きな月が堕ちて行く。
音も無く、ただゆっくりと…。
「くそ…一番の被害者だったの…か!」
瑠璃ちゃん、亮一、珊瑚が駆け寄ってくる。
「仕方ねえ。こーゆーこともあるさ。」
知らぬ間に零れた涙を拭っていると亮一が俺の髪の毛をくしゃくしゃにしながら言った。
何の飾り気の無い、不器用を丸出しにした亮一の言葉がやけに嬉しく思えた。
「椿せんぱ〜い。まだ、やることありますよぉ〜。なんとな〜くですけどぉ。大丈夫ですよ〜。
」
そうだ、まだ終わってない。
「夏夜!」
駆け寄って夏夜を抱え起こす。
「夏夜!…夏夜!」
「あ…ケン…じ?」
「大丈夫か?」
「う・・ん、へいき。ご、ごめんねぇ。変な風にコクっちゃった…。ムード・・もへったくれ・・もない・・ね。」
「そうだな…。」
「こた…え。きか…せてよ!女の子にぃ…コク…らせて…逃げる気?」
「…・」
「おと…こらしく…ない。」
そう言うと夏夜は力無くぺちぺち俺の頬を叩いた。
「ん…もぉ・っ。ひきょーもの…。」
「瞳ぇ、つむれ。」
「…ん?」
「瞳を、つむれって言ったんだ。」
「あ?な・・かくれ・・るの?た・・じょーび…まだ、はや・・い・・けどなぁ。」
「黙って、瞳をつむれ!」
「わ・・かった・・よぉ。」
夏夜が微かに開いていた瞳を閉じる。
少しの沈黙の後、俺は静かに唇を重ねた。
「んっ…。」
唇を離す。
「あっ…。」
「口下手なんだ…俺。」
「えへへー、いま・・の…ちょっと、きもちぃ・・かった・・よ?」
「そっか。」
「ん…いつ…か…また…して?」
「気が…向いたらな。」
「剣志…ありがと。」
フッと夏夜の体から力が抜ける。
キスをした時に首の後ろに回されていた腕がカクンッと落ちる。
「おい!夏夜!こら!ばか!目を覚ませ!」
「み〜ちゃったぁ、み〜ちゃったぁ〜♪」
「へ!?」
「チューだなんて妬けちゃいますねぇ〜。ね〜?甘糟せんぱ〜い。」
「おうおう、椿がなぁ…。巣立って行くものよのう。」
「剣志殿は兄上殿に育てられたのでは無いのでは?」
「否、俺が育てたと言っても過言では無いのだぞ珊瑚!」
「何でお前らそんなに悠長に話してやがるっ…!」
「何でって…なんで?」
「夏夜が…夏夜が死んだんだぞ!?それなのに…それなのに。おまえ・・。」
ドガシッ
「ぐはっっ!」
「殺してんのはお前だっ!わからんちんがっ!良く見てから言えっ!」
「へ!?」
夏夜の顔に目を移す。
…解りにくい…胸に…。
動いてますね…。
「寝てるだけなのに勝手に殺すなってんだ。おたんこなす!」
「せんぱ〜い、それふるいですよ〜?」
「懐かしい響きだな。」
なんだ、脅かさないでよ。夏夜さん。
あははっ。
「クククッ、アハハハハハハハッ!」
そうだ、何も変わってないじゃないか?
何時もつるんでるこの面子も、そしてまたこの学校で過ごす日々もきっと…。
変わらないんじゃないだろうか?消えてしまった春日先生以外は何も…。
「なんだぁ?遂に血管切れたか?」
「そんなわけないだろ?さ、帰ろうぜ。瑠璃ちゃん夏夜の事お願い。」
「はい〜。任せてください〜。」
―――――pl―――――
「…きて」
ん?
「おきて…じ」
気のせい気のせい
「起きて…剣志!」
後5分
「起きろー!ケンジーっ!起きないと刺すよっ!」
「おはようございます!」
朝一番の台詞。
ここの所いつも同じ台詞。
パッチリした眼で目覚ましを手に取る。
6時
「朝ごはん食べよっ!」
学生服にエプロン。いつもと変わらない風景。
アイロンの掛かったワイシャツ、プレスの効いたズボン。
コーヒーの香りとトーストの焼けた香り。
どちらも綺麗に平らげる。
「ご馳走様です。」
「お粗末さまー。」
着替えて鞄を手にする。
玄関まで出ていつもの台詞。
「先に行っちゃうぞー?」
「ち、ちょっと待ってぇ!」
こちらもいつもの台詞。
外に出るとギラギラと言う形容がピッタリな程、太陽は照り付けていた。
また一日が始まる。
坂を折り始めると見知った顔が声を掛ける。
「よぉ、お二人さん。溶けちゃいますよー!」
「きゃ〜、甘糟せんぱ〜いこわ〜い〜。」
「お前らに言われる程度なら溶けやしない。」
「そうそう、流石に離れるものね?暑い時は。」
そういって見知った二人を見つめる俺達。
ピッタリくっついている二人。
そしてその影に隠れるように佇んでいる見知った小学生。
いつもと変わらない。
大して差の無い日常が俺達には戻ってきていた。
大して
差の無い…。
end