<F.M.L.K>
翌日の夕方
少し遅めに起きた美希は洗面所で髪の毛の手入れをしていた。
外側や内側に少し巻いてみたり、跳ねっ気を抑えてみたり。
またプロデューサーに会えると思うと楽しくて仕方が無かった。
心配する事はきっと何も無い。
そう信じて疑わなかった。
貰ったピアスやルージュに合わせて服を選んでみたりしていると時間はあっという間に過ぎていった。
美希の携帯電話がピリピリと電子音を鳴らす。
「もしもし?」
「美希?俺だよ。今大丈夫か?」
プロデューサーの電話に美希は胸が高鳴った。
「うん、平気だよ」
「そっか、これから時間取れる?」
慎重に時間を聞いてくるプロデューサーに美希は笑って答えた。
「ミキのスケジュールはハニーが一番良く知ってるでしょ?」
その言葉にプロデューサーは笑いながら言った。
「まぁ、そうなんだけどな。じゃあ1時間後に昨日会ったマンションの前で待ち合わせ出来るかな?」
何でそんな所にと不信に思ったが美希には断る理由も無いので快く了解した。
「いいよ、じゃあ1時間後ね………律子!」
電話を切るや否や美希は律子の部屋のドアを乱暴に叩いた。
「どうしたのよ、慌てて」
驚いて律子が出てくると美希は不意に律子の手を両手で抱え込んだ。
「律子…さん、お化粧教えて欲しいの!」
「はぁ?どうしたのよ、急に…はは〜ん、そう言うことか」
美希の慌てっぷりを悟ったのか律子は部屋に入ると美希を鏡台の前に座らせた。
「とは言っても私も化粧っ気がある方じゃ無いからね。あずささんが一番あるんだろうけど」
律子はそう言いながらも幾つか化粧道具を用意している。
「いつ会うの?
「1時間後!」
「何所で?」
「海の近くのマンション!」
「ちょっと、歩いて行ったら20分後には出なくちゃじゃない!教えてる暇なんて無いわよ!」
「そんな〜っ」
「そんな〜っじゃないわよ。いいわ、今日は私がしてあげるから。そうねぇ、美希ならナチュラル系よね」
美希はただじっと律子のチョイスする化粧品を眺めていた。
「ブラウンでもあまり濃いのは避けて…アイラインを引かないでアイシャドウもラメだけの奴にして、ルージュは」
「律子!」
「何よ?…フフッ、ちゃあんと解ってるわよ」
律子は優しく微笑むと美希から一本ルージュを受け取った。
律子のされるがままに顔中を触らせているとまるでスタイリストの様な手つきで手際よく化粧は施されて行った。
非番の時は良く他のアイドルのアシストをしていると聞いた事はあったがまさかこう言う事まで出来るとは思ってなかった。
千早より年上で少し化粧をしてる期間が長いだろうと思って律子を訪ねただけだったが唇以外の箇所は殆どスタイリストと変わらぬ出来だった。
律子は本当に色んな事が出来るんだなぁと感心していると律子が不意に声を掛けてきた。
「あ、グロスが無いわ。ちょっと待ってね」
律子が携帯を取り出して幾つかボタンを押すと耳に当てた。
「あ、千早?ごめんね、ちょっと離れられないから。千早の使ってるグロス貸してくれない?うん、そう。いや、私じゃなくて。お願いね」
パタリと携帯を閉じると千早がグロスを持って隣の部屋から訪ねてきた。
「今開けるー」
千早が入ってきて律子にグロスを手渡す。
「ありがと」
「いいのよ、美希の為だもの。どれどれ?」
美希の姿を見て千早が微笑んだ。
「フフフッ、綺麗になったわね。美希」
「ありがと、千早さん」
「さてと、美希。ルージュは自分で引きなさい」
唐突な律子の言葉に美希は驚いた。
「えーっ!?」
「そこは手を貸せないわ」
律子が悪戯っぽく言う。
「そこは自分で決めなさい。私が先に使うわけにいかないしね。ミスったら治してあげるから」
律子の言葉に美希は恐る恐るルージュを手に取った。
「リップ塗るのよりはみ出ない様に少し内側に塗るの。後は唇同士で噛んで調整すればいいから」
言われるがままにルージュを引いてみる。
(はみ出ないように、はみ出ないように…唇同士で噛んで…)
一通り終えて律子を見上げる。
「美希にしては慎重過ぎるわね…でも、上出来よ」
律子は微笑みながら美希のルージュをスッと引き直すと千早に借りたグロスで仕上げる。
「これでいいわっ」
ルージュを引いただけで鏡の中の美希は少しだけ大人びて見えた。
淡いピンクのルージュが美希の化粧を寄り引き立たせていた。
「服はと…大人しめのがいいかなぁ」
律子はガチャガチャと自分のクローゼットから服を選び出した。
一つは丸い襟の付いたグレーのノースリーブのワンピースで美希が着ていた衣装よりも裾は長めで膝のところまで来ていた。
「寒くなるとあれだから、これも着なさいね」
ワンピースを着た美希に白い襟無しのカーディガンを羽織らせた。
「ハハッ、ちっとも美希らしく無いわね、プロデューサーの驚く顔が目に浮かぶわぁ」
律子が楽しそうに笑う。
釣られて千早もクスクスと笑い出した。
「ミキっぽくなくていいのかな…」
少し焦りを感じた美希の肩をポンと律子が叩いた。
「プロデューサーに美希と例の子を見比べて貰わないといけないでしょ?今の美希は20歳位のおねーさんに見えるわよ」
「そっか…そうしてもらお!」
美希が力強く頷いた。
「じゃ、律子さん、千早さん。行って来るね!」
やっぱり地は隠せないようで美希は勢い良くドアを開けて出て行った。
「服とお化粧が変わっても美希は美希ね…」
律子が呆れて言う。
「いざと言う時はやる子よ」
千早が言うと律子はコロコロと笑った。
「ははっ、美希を前にしたプロデューサーの姿見てみたいわぁ」
待ち合わせの5分前に美希は丁度マンションの前に着いていた。
エントランスを正面に捉えて待っていると中からプロデューサーと女性が一緒に出てきた。
プロデューサーが辺りを見渡している。
一度美希の方も向いたが再び探し始める様子を見て美希は思わず吹いてしまった。
「プッ、アハハハハハッ」
不意に笑い出した女性の声にプロデューサーは聞き覚えがあった。
「美希?」
「アハハッ、はぁっ。楽しかった。」
一頻り笑って少し落ち着いた美希は静かに歩いてくるとプロデューサーニコリと微笑みかけた。
「おはよう、ハニー」
美希は少し落ち着いた口調で挨拶をした。
美希を見てプロデューサーは驚いた。
少し化粧を施していて落ち着いた感じの服を着こなすと美希は中学生とは思えない程落ち着いた感じの色気があった。
「驚いたな…別人かと思ったよ」
プロデューサーはそう言うとちらりと隣の女性を見た。
女性も少し驚いている様子だった。
美希は女性の方を向くと軽く会釈をした。
彼女もそれに気付くと会釈で返した。
「さ、ハニー。教えて、その子…」
美希の言葉をプロデューサーは遮った。
「ちょっと公園の方に行こう。ここじゃ少し目立つから」
そう言うとプロデューサーは美希の手を取って公園の方に歩き出した。
手はしっかりと恋人繋ぎにされていてそれだけでも美希は涙が出るくらい嬉しかった。
5分程歩くとまだ夜の浅い海浜公園は電灯と月明かりでぼんやりとした夜景を映し出していた。
「ここも、夜景がキレイだね」
美希が手すりに手を付いて海を見ながら言った。
「…美希」
プロデューサーが声を掛けると美希は静かに振り向いた。
「なぁに、ハニー」
「その…色々ごめん…」
俯いて謝るプロデューサーに向かって美希は微笑んだ。
「もういいよ。全部ちゃぁんと話してくれれば許してあげる」
「うん、ありがとう」
「じゃあ、先ずはやっぱりその子が誰なのか教えて?それだけなんだ、ミキの中で解らないの」
美希は言いながら小首を傾げていた。
「新しい彼女だって言うならそれも解る気がするの。買い物したり一緒のマンションに帰ったりしてたから」
「言い出せなくてごめん。ちょっと俺の中でも整理しておきたい事があってはっきりさせるまでは美希には言いづらかったんだ…」
「???」
「前々から知ってて何度か会った事はあるんだけど」
プロデューサーの言葉を美希は黙って聞いていた。
女性も黙ってプロデューサーの後ろで話しを聞いている。
「彼女がこっちに来るって言うから親にはっきり聞いておこうと思ってね。聞けば俺の中で抱えて来たもやもやが消えると思ったから」
「うん…」
「それが昨日、美希に会った後やっとはっきりしたんだ。俺の父親が会ってちゃんと認めたんだよ」
「ちょっとまって!それって…イイナズケって言う奴?」
不意に言葉を挟んだ美希に向かってプロデューサーは首を横に振った。
「違うよ」
と優しく言うとプロデューサーは女性の背中をポンと叩いた。
それを合図に女性が少し快活な口調で話し出した。
「初めまして…でも無いのかな?」
女性の口調はどこか春香にも似ていたがそれとは違った落ち着きの様なものがあった。
ゴクリと美希が喉を慣らす。
「妹の小夜(さよ)です。よろしくね、美希ちゃん」
「えっ?」
美希は一瞬耳を疑った。
「今…妹って言った?」
聞き返す美希にプロデューサーが首を縦に振って答えた。
「うん…母親が違うけど」
「あ…そう、そうなんだ…さ、小夜は幾つなの?」
「今年で21歳になるよ、美希ちゃんは今日で15歳よね?」
何でそんな事を知っているのだろうと不信に思うことは今の美希にはとても些細な事だった。
「ハニー…」
低い声で呼ぶと美希はゆっくりプロデューサーに近づいてきた。
「うん?」
ちょうど目の前まで来た時に美希はプロデューサーの胸を叩いた。
「なんで、なんでっ…」
プロデューサーの胸をポカポカと叩きつつも美希の声は徐々に震えてきていた。
「何で最初に…言ってくれなかったの!そしたら、そしたら…ミキ、泣かなくて済んだのに!」
そこまで言うと美希は叩く手を止めてプロデューサーのシャツを掴んだ。
「ミキ、いっぱいいっぱい泣いたんだよ!辛くて切なくていっぱい泣いたんだよ!違う事なら泣かなかったのに!」
プロデューサーはギュッと美希を抱きしめた。
小夜はその様子を見てスッと何処かへ歩き出した。
「ハニーのっ…うっ…事だから、泣いたのにっ!ハニーとっ…ぐすっ…ミキの事だからぁ…涙が…止まらなかったのにっ!ミキの涙…返してよ…」
「ごめん…」
美希を傷つけた事を思うとプロデューサーは他に何も言ってやれなかった。
自分の所為であの明るい美希が泣いた事
プロ意識が高い美希が撮影中に堪えきれず涙を見せた事
自分を楽にする為に美希を傷つけていた事
それを思うと何か言葉を掛けるのが美希に大して失礼の様に思えた。
「うっ…ひっく…ぐすっ…」
一頻り泣き終わって落ち着くと美希はプロデューサーの顔を見上げた。
「スンッ…ハニー、ミキの事好き?」
その質問にプロデューサーは笑顔で答えた。
「うん、好きだよ。ずっと会いたかったよ」
その言葉をプロデューサーの目を見つめながら美希は聞いていた。
「じゃあ、ミキが今何考えてるかわかる?」
美希の訴えるような瞳を見つめながらプロデューサーは自信ありげに言った。
「解るよ、美希の事はなんでも!」
「じゃあ、当ててみて?」
潤んだ瞳で微笑みかける美希を見つめてプロデューサーは抱き締める腕を少し強めた。
そしてそのままそっと美希の唇を塞いだ。
「…ん」
波の音が3回程聞こえた頃、ゆっくり唇を離そうとすると美希が名残惜しそうに頭を押さえた。
「やだ…もう1回」
「っ…」
今度は美希が細かく何度も口付けて来る。
しばらくそうして気が済んだ様に美希が唇を離すとプロデューサーが息を吐いて聞いた。
「はぁ。当たってたかな?」
ギュッとプロデューサーの胸に顔を押し付けながら美希はコクリと頷いた。
「良かった。他に聞くことは無い?」
「ある」
「今度はどんなん?」
「ミキ…ハニーの側に居て良いの?」
その言葉にプロデューサーは少し困った顔をした。
「あぁ…また先に…」
「ん?」
「美希は俺のタイミングを読んでるのかな…」
そういうとプロデューサーはポケットからごそごそと何かを取り出した。
「はい、誕生日おめでとう。美希」
リボンが結われた小さな箱がプロデューサーの手のひらに乗っていた。
「わぁ、ハニーありがとっ♪覚えててくれたの?」
美希はプロデューサーの手からその小さな箱を受け取った。
「担当プロデューサーとしても、当然だし。恋人としても当然だよ」
ちょっと照れくさそうにプロデューサーは鼻を啜った。
「開けてもいい?」
「いいよ」
返事を聞いてからリボンを解いて見ると中から白いホワホワした素材の箱が出てきた。
パコッと言う音をしながら箱が開くと中から指輪が二つ姿を見せた。
「あぁ!?これ!あそこのでしょ?」
そう言って美希はお店の方向を指差していた。
「知ってるのか?」
美希は激しく首を縦に振った。
「これ、凄い可愛いなって思ってたの!」
「そっか、気に言って貰えて良かった。じゃあ手を出して」
その箱をそっと美希から受け取ると小さい方を美希の右手の薬指にそっとはめた。
そして自分は大きい方を右手の薬指にはめた。
「ふふーん♪」
美希が嬉しそうにプロデューサーの右手と自分の右手を重ねるとリングのワンポイントが一つのハートマークになった。
「なるほど、こう言うデザインが女の子は好きなのか…」
不思議そうに指輪を見つめるプロデューサーを美希は見つめた。
「ハニーが選んだんじゃないの?」
「指輪を選んだのは俺なんだけどね…デザインは解らなかったから小夜に選んでもらったんだ…」
プロデューサーはポリポリと頭を掻いた。
「ふーん」
「美希ちゃんは絶対こう言うのが好きよって。美希ちゃんだけにあげるんじゃなくて自分も同じのするの!って怒られたよ」
苦笑しながらプロデューサーが言うと美希はプロデューサーの頬に軽く口付けた。
「ありがとう、ハニー♪」
「アハッ、みーせつけてくれちゃって!」
プロデューサーが振り返ると小夜がジュースやコーヒーを人数分持ってきていた。
「お兄ちゃんはコーヒーね、美希ちゃんは炭酸でよかった?」
小夜の手に抱えられた缶ジュースを見て美希は頷いた。
「ありがとうなの」
「どういたしまして」
小夜の笑顔を見て美希は菜緒の事を思い浮かべていた。
「ちょっと一服してくる」
そう言ってプロデューサーは少し離れた所で煙草に火を点けた。
お互いにプロデューサーの方を向きながらジュースを飲んでいた。
先に口を開いたのは美希の方だった。
「…あの」
「なぁに?」
「ありがとうなの、指輪…選んでくれて」
美希の言葉に小夜はクスッと微笑んだ。
「お兄ちゃんはプロデューサーの癖にこう言うのは疎いからねぇ。私はコスメの研究とかしてるから流行に少しは敏感なんだけどね」
缶ジュースを飲みながら小夜は答えた。
「ごめんね、色々と迷惑かけて」
「ううん、もう平気だよ♪」
「ありがとう。でもね、私がこっちに来たって言うのにお兄ちゃんたら美希ちゃんの事ばかり話してたのよ」
少し呆れた口調で小夜は言った。
「妹がこっちに住むって言ってるのに懐かしむ暇もくれないんだから、少し妬けちゃうわね」
「あ…ごめんなの」
美希がそう言うと小夜はコロコロと笑いだした。
「美希ちゃんが謝る事じゃ無いわ。それより美希ちゃん今日はお化粧してるみたいだけど」
「あ…うん。律子にやってもらったの♪あ、律子って言うのはアイドル仲間なの」
「そっか。昨日見た時よりも大人になっちゃったからビックリしちゃった。ナチュラルでいい色ね。配色も良いし律子さんお化粧上手いわね」
小夜がそう言うと美希も大きく頷いた。
「ミキもそう思う!」
「でも…」
「でも?」
「ルージュとグロスだけブランドが違うでしょ?」
「何で解るの!?」
美希の驚き様に小夜がクスッと微笑む。
「お仕事だからね♪そこだけ春色してるわ。見たこと無い色だけど春物の新色かな?ブランドも当ててみようか?」
小夜の言う事はその殆どが的確だった。
ブランド名すら言い当てられたら完璧に見分けられてる事になる。
小夜の言葉に美希はゴクリと喉を鳴らした。
「フフフッ。始めが F 終わりが S のブランドでしょ?千早ちゃんがCMしてる所」
小夜が言うと美希は思わず拍手してしまった。
「すごいの!小夜すごい!」
「アハッ♪ありがとう」
「ミキも小夜みたいになれるかな?」
「私みたいにならなくても美希ちゃんは私から見ても綺麗だし。お化粧は覚えるだけでいいんじゃないかな?」
その言葉に美希はうーんと唸っていた。
「逆に美希ちゃんにお化粧させて貰えると私は助かるんだけど」
「う〜ん…」
「美希ちゃんがお兄ちゃんと結婚してくれたら5歳年下のお姉ちゃんかぁ、なんか楽しそっ♪」
「んなっ!?」
不意にそんな事を言われ美希が耳たぶまで真っ赤にしているとプロデューサーが二人の元に戻ってきた。
「なんか拍手があったけど楽しい事でもあったのか?」
顔を真っ赤にしている美希を不思議そうに見つめながらプロデューサーが言うと小夜は立ち上がった。
「お姉ちゃんにならないかなって言ったの」
その言葉にプロデューサーは呆れた顔で答えた。
「また、お前は…」
「あ、お兄ちゃんのシャツ桜が咲いてる」
言われてシャツに目をやるとそこには桜色の小さな跡が付いていた。
「美希のか…」
フフンと鼻を鳴らすと小夜がコツコツと歩き出した。
「じゃあ私は先に帰ってるからごゆっくり!…あ、そうだお兄ちゃん」
小夜はプロデューサーにコソッと耳打ちするとまた歩き出した。
「ごゆっくりって言ってももう遅いしな…」
「ハニー、じゃあもう1回だけぎゅってして!壊れちゃうくらい!」
その言葉にプロデューサーが答えると美希はプロデューサーの胸に飛び込んでいった。
「う〜〜っ、ハニー好き!だーい好きなのっ♪」
飛び込んできた美希を抱き締めて優しくキスをする。
「俺も美希が好きだよ」
照れくさそうに言うプロデューサーの顔を見て美希はニコリと微笑んだ。
「じゃあ帰ろ?送ってくれる?」
「いいよ。車で送るよ」
プロデューサーが車を回して夜の道路を走ると美希達のホテルにはものの数分で着いてしまった。
近くに車を停めて美希をホテルの近くまで送る。
「明後日までティアラは休暇だったな。俺はホテルには泊まれないから、小夜の所に居るよ」
「うん。わかったの♪」
「美希…ちょっと」
「ん?」
美希が側によるとプロデューサーが不意に美希を抱き締めてキスをした。
「んっ…ぷはっ!びっくりしたの!」
嫌そうな雰囲気は微塵も無さそうに美希が答えた。
「何となく名残おしくって…明々後日からもよろしく頼むな」
「あはっ♪ずーっと一緒でしょ?心配ないよ!」
プロデューサーの腕に包まれながら美希はこの時間がずっと続いて欲しいと願っていた。
「ずっとずっと一緒に居たい…。ハニーともっと色んな夢を見たい。そしたらもっとミキはキレイなる!ハニーの為に」
はぁと幸せとも切なさともとれる溜息を吐きながら美希はプロデューサーの鼓動を感じていた。
「とんでもない子を恋人にしちゃったかな?メイクするだけで凄く綺麗になっちゃうし」
笑顔で言うプロデューサーに美希は上目遣いで答えた。
「アハッ♪そうだね、大変だねハニーは!」
「美希と一緒なら乗り越えられるよ。よし!じゃあ帰ろうかな」
車に向かって歩くプロデューサーの背中を見つめながら美希は色んな事を感じていた。
プロデューサーが自分を助けてくれた事
そのおかげで色んな事に気付けた事
そしてトップアイドルになれた事
その人が自分を好きだと言ってくれた事…
きっとまたこの先も彼の顔を見ては嬉しくなり彼の背中を見ては寂しくなる日々が続いて行くのだろう。
そして何時の日かそんな事が無くなる様に同じ家に向かって一緒に帰る日が来るのだろう。
今までの沢山の幸せをありがとう、そしてこれからも…ハニーが大好き♪
感謝や期待を胸いっぱいに膨らませているとプロデューサーが不意に声を掛けた。
「言い忘れた!美希!ルージュすごく似合ってたよ!どこのつけてた?小夜に聞いてみる!」
プロデューサーがそんな事を今言うものだから美希はどうしてももう一度抱きつきたくなってしまった。
「アハッ♪もう遅いのっ!」
駆け寄って抱きつきざまに唇を重ねる。
「ミキのルージュのブランドは…」
首に腕を回したまま美希は微笑んだ。
「エフ・エム・エル・ケー♪」
「えふえむえるけー?」
「そう!Forever My Little Kiss♪」
チュッと小さく美希はキスをした。
私の 小さな キスを 永遠に…
ずっとずっと 愛してる ハニー♪