<Love at Night>
星井美希、如月千早のユニット<ティアラ>はトップアイドルとしての道を堂々と闊歩していた。
中学生離れしたビジュアルと表現力を持つ美希と圧倒的な歌唱力を持つ千早のユニットはトップに立つべくして生まれたユニットだと
週刊誌にも書かれるくらいの猛スピードでトップに辿り着いたのだった。
「お疲れ様です、プロデューサー」
ライブを終えた千早がプロデューサーの元に戻ってくる。
「お疲れ様。千早、今日もバッチリだったな!」
そう言うとプロデューサーは親指をグッと立てた。
「フフッ、ここまでの大舞台で歌える事が出来るのはプロデューサーのおかげですから」
千早はニコリと微笑みながら言う。
「俺は何もしてないよ、全ては二人の才能と努力の賜物だよ!そういえば美希は何やってるんだ?」
「あれ?さっきまで一緒だったのに?」
二人で辺りを探していると不意にプロデューサーのへその辺りに腕が絡まった。
「おわっ!?」
プロデューサーが驚いて振り返るとそこには黒いスパンコールの衣装を纏った美希が背中にギューッと顔を押し付けしがみついていた。
「プロデューサーさん、お疲れ様♪」
そう言うと美希は顔を上げ無邪気に微笑んだ。
「びっくりさせるなよなぁ。」
「たまには後ろから抱きつくのもいいかなぁって思ったの♪」
美希がニコッと微笑むとプロデューサーの気持ちは少し高鳴った。
「美希もお疲れ様。早く着替えておいで、2,3日休みを取ってあるから早く帰って休むといい」
「お休みなのかぁ、つまんないな」
そう言うと美希は寂しそうに溜息をついた。
「連日のライブの疲れをとって貰わないと困るんだからな」
「む〜っ。はぁ、ハニーと会えないのは寂しいけどガマンするよ♪」
「っ!?頼むよ…ドキッとさせる様な事は他の人が居る所では止めてくれ、美希…」
その様子を見て千早がコロコロと笑う。
「仲が良いんですね。お似合いだと思いますよ。美希は可愛いから心配は絶えないでしょうけど」
千早もニコリと微笑んだ。
「いいからっ!二人とも早く着替えてっ!」
「は〜いっ♪」
元気良く美希が応えると千早も美希も控え室に向かって歩き出した。
「ったく…」
疲れきっているのか二人とも帰りのバスの中ではすぅーすぅーと寝息をたてていた。
一旦事務所に戻り、明日からのスケジュールを確認し解散する。
その夜
「これからも、ずっとそばにいてね。ミキどんなことだってするから。お願いね……、ハニー♪」
美希はパチリとウインクをした。
美希はプロデューサーの袖を引っ張って小さく「ねぇねぇ」と囁いた。
「星井ミキ、ハニーだけに限定発売ちゅ☆ホントだよ。早くしないと、売り切れちゃうよ。ほらほらどーする?」
ウインクしながら期待に満ちた瞳で見つめる美希。
「じゃ、じゃあ……予約するよ」
「わっやた!はい、受け付けましたー。ひとつしかないミキは売り切れでーす。お金は要らないから、ちゃんと予定通りに貰ってねっ♪」
「ミキ、ハニーのこと、だーいすきなのっ!これからも側に居られる様に、頑張るからね」
「あああああああああもうっ!」
ベッドの中でプロデューサーは叫び起きた。
「美希の事が好きなのは解ってるって…」
プロデューサーはポツリと呟いた。
美希に告白をされてからと言うものプロデューサーは眠れない日々を送っていた。
勿論プロデューサー自身に美希への好意が無かったといえば嘘になる。
だが今までの美希がまるで別人の様に変わり果てた事にプロデューサーの気持ちも急速に答えを求め始めていた。
今日で何夜目になるだろう。
自問自答を繰り返しその都度自分の気持ちに嘘を吐き納得してきた。
「美希が好意を持ってくれてる事も承知してるよ…でも…歳だって離れてるじゃないか…」
点けた煙草を灰皿に置いたまましばらく頭をかかえて考えていた。
煙草が煙をたてなくなってしばらくした頃プロデューサーの気持ちは決まっていた。
「…言おう。バレればファンは減るかもしれない、今の人気も保てなくなるかもしれない。…出来る限り守ってみよう。最後の一人になっても…」
翌朝、事務所に着いたプロデューサーはスケジュールのチェックをしていた。
「そろそろ新曲も考えないといけないな、少し検討してみるか…」
ふと腕時計を確認すると時計の針は17時を指していた。
「そろそろかな…」
とある公園のお堀沿いにプロデューサーは来ていた。
以前に美希とアイドルについて話し合ったこともある場所で美希はここでバードウォッチングをするのが大体の休暇の過ごし方だと聞いた事があったからだった。
夕方頃に来るだろうと踏んでいたプロデューサーの読みは大幅にずれていたらしく時計の針が20時を指した今でも美希は現れなかった。
「事前に連絡しておけば良かったかな…煙草も切れたし、もう少しまってダメならまた来てみよう」
をう呟くとプロデューサーは煙草の自販機を探して歩いて行った。
喫煙場所でコーヒーを買って一服して一息着くとまたお堀に向かって歩き出す。
「おや?」
プロデューサーが着くとそこには先客が既に一人佇んでいた。
容姿からして高校生か大学生の女の子にに見えたが夜中にも関わらず大きな麦わら帽子をかぶっていた為、顔は確認できなかった。
邪魔をしない様にと反対側の手すりに腕をついて下に居るカモを眺めていると不意に後ろから声が聞こえた。
「アハハッ♪先生はお菓子取るのも上手なのっ!」
プロデューサーが振り向くとその子は手に○っぱえび○んの袋を持ってカモに与えていた。
「この声…先生って…」
「あーぁ、無くなっちゃった。退屈だなぁ、お休みなのは良いけど…」
中身が無くなってしまったのか寂しそうな声を出すと女の子は手すりに突っ伏した。
「暗くなってからじゃないと出歩けないし、すぐ帰らなきゃいけないし。む〜っ。……ハニーに会いたいな」
(間違いない…よな?)
自分でもう一度確認するとプロデューサーは意を決して、そしてなるべくいつもと変わらぬ様に声を掛けた。
「呼んだ?美希」
「へっ!?」
驚いて後ろを振り向くと見覚えのある人がそこに立っていた。
見間違える筈もない、例え他の誰が気付かなくても自分が間違えるはずも無い。立っていたのは最愛の人だったから…。
麦わら帽子を上げて全体を確認すると勢い良くその人に向かって飛びついた。
「アハハハハハッ♪ハニー、どうしたのぉ?ビックリだよっ!」
嬉しそうに美希はプロデューサーの感触を確かめていた。
「いやさ、ここに来れば美希の顔が見れるかなぁって思ってな」
「ホント!?会いたかった?ミキもっ!ちゃんと会えたね!すごいね!」
嬉しさの余り美希の言葉は途切れ途切れだった。
「美希、ちょっと落ち着けって」
辺りを気にしながら諭すプロデューサーの言葉は美希には上手く伝わってなかった。
「落ち着いてなんていられないよぉっ!会いたいなぁって言ったら会えちゃったんだもん!」
そう言ってギューッとプロデューサーを抱きしめると美希は急に大人しくなった。
「どうした?美希(胸があたってるって…!)」
そんなプロデューサーの気持ちも知らず美希は幸せそうに溜息をついた。
「はぁ……なんか、ウンメー感じちゃうね♪」
…ドキッ
(なんて事を言うんだ!……あぁ…ダメだ、今ので完全に堕ちた……いやいやまだ、まだだめだ!)
理性を呼び戻して抱きついている美希の肩を掴んで力強く引き離した。
「ハニー?どうしたの?急に」
急に体を離されそのまま俯いているプロデューサーをキョトンとした目で見ているとプロデューサーは口を開いた。
「ちょ…ちょっとジュース飲みに行こう!(何言ってんだか…)」
「アハッ♪喉渇いたなら言ってくれれば良いのにっ。行こっ」
肩に掛かった手を取って美希はキュッと手を握った。
そのままさっき煙草を買いに来た簡易休憩所でプロデューサーはコーヒーと美希のジュースを買って煙草をくゆらしていた。
気持ちを打ち明けようと決めたには決めたが逆にその決断が仇になりプロデューサーはタイミングを見計れなくなっていた。
「ハニー、なんだか落ち着かないね?」
ベンチに腰掛けていた美希が不意に声を掛ける。
「ん…んん…まぁ、ね」
煙草を消しては点ける作業を3回ほど続けたがその間会話は殆ど無かった。
しかし美希はそんな状況でもまんざらでもなかった。
「これって…デートだと思っていいよね?」
少し照れながら美希はプロデューサーに確認を取った。
「まぁ、そうだな…」
プロデューサーは美希の言葉や行動がいちいち気になっていた。
「やたっ!エヘヘッ♪だったらもうちょっとお洒落な服だったら良かったな、ちゃんと呼んでくれれば良かったなって思うな」
そう言いながらも美希は嬉しそうにプロデューサーを見上げた。
「い、色々と事情があるんだよ、俺にも…」
また煙草に火を点けて言った。
「ハニー今日もお仕事だったんだねっ♪」
「うん」
「…」
「…」
しばらく飲み物が喉を通る音と煙草の焼けていく音だけが流れていた。
その静寂はプロデューサーに更なるプレッシャーを掛けた。
プロデューサーの鼓動は何時になく早まり平静を保つのもやっとの状態だった。
(そろそろ…限界か…)
しかし先に口を開いたのは美希の方だった。
「夜のデート…なんか良いなっ♪こうして静かなのも嬉しっ♪ハニーに会えたからかなっ?」
無邪気にそんな事を問う美希にプロデューサーは返事が出来なかった。
「…」
無言のまま煙草を灰皿に押し付ける。
「…ハニー」
呼ぶと美希はチョイチョイと手招きをした。
何をされるのかと気がきでなかったプロデューサーだったが仕方なく美希の方に近寄っていくと美希はプロデューサーの袖を引っ張ってその勢いで立ち上がって
「今日は帰りたくないの…」
と耳元で囁いた。
「んなっ!?」
「きゃん♪言っちゃったの♪恥ずかしいってカンジ♪」
美希は喜々としていた。
「美希っ!」
不意に声をあげたプロデューサーに美希はビクッと体を震わせた。
「…な、に?」
怒られるのかと思って美希はシュンとしていた。
「ちょっと大事な話をするぞ」
真剣な態度のプロデューサーを見て美希もちゃんと聞こうと思いしっかりとプロデューサーの方を向いた。
「さっき、美希の顔を見に来たって言ったけど…」
「…うん」
「あれは、半分嘘なんだ」
「そ…なの?」
「と言うのも、今日は美希に言いたい事があってここまで来た」
「ティアラの…事?」
美希自身もこの状況でそんな訳無いと思いつつ敢えて確認した。
「違う、美希の事」
「う、うん」
内心、プロデューサーが何かをさっきから言いたげにしている事は気付いていた。
「俺も…その色々考えたよ。今やティアラはトップに立っていると言っても過言ではないし、美希の将来の事も…それが俺の仕事でもあるから…」
「…」
「だから…悩んだよ…」
「まって!」
「えっ…?」
「ミキ、難しい事はわからないよ。でも、ハニーの事は大好きだよ?ミキがアイドル辞めても、ハニーがプロデューサー辞めてもそれは変わらないの!」
美希の言葉には少し怒気とも取れる強さが混じっていた。
「……ククッ」
「????」
不意に笑い出したプロデューサーに美希は首を傾げた。
「あはははははははっ!」
「ハニー!何笑ってるの!ミキ、真剣だよ!」
笑われてる恥ずかしさに美希はかなり本気で怒っていた。
「あはははっ。はーっ。ごめん、美希」
「む〜っ」
「いや、最後の最後まで勇気をくれたのは美希だったかって思ってさ…」
「またわからない事を言うの…」
「美希みたいに素直なら何も悩む事はなかったのかなってさ」
「???」
「美希、いつぞやのコマーシャル覚えてるか?」
「ん〜?」
「香水のやっただろ?ちょっと前だけど」
それを聞いて美希はポンと手を叩いた。
「あっ、覚えてるよっ!」
うんうんと美希は何度も頷いた。
「もういっかいやってくれる?」
「いいよっ♪ん〜とねぇ」
少し考えると美希はニコッと微笑んだ。
「トップアイドルユニット<ティアラ>の星井ミキ、ハニーだけに限定発売ちゅ☆」
チュッと投げKISSがプロデューサーに向かって飛んできた。
「アレンジが加わってお得感が増したなぁ」
プロデューサーは笑いながら言った。
「でしょっ?もう売り切れてるんだからコマーシャルしてもしょうがないねっ」
美希は照れくさそうにはしゃいでいた。
そんな美希の手をプロデューサーは優しく両手で包み込んだ。
「あ…ハニー?」
驚いている美希にプロデューサーは優しく微笑んだ。
「予約した者です。美希を貰いに来ました」
刹那、何が起こったのか美希は把握出来なかったが意味を理解するのに時間は掛からなかった。
「…ホント?キャンセルは出来ないよ?」
そんな話が聞けるとは思いもしなかった為、嬉しさのあまり涙が溢れそうになった。
「する気は無いよ」
そう言うとプロデューサーは美希をギュッと抱きしめた。
「美希が好きだよ」
その言葉を聞き終える前に美希の瞳からは涙が一滴頬を伝っていた。
「うん…うん!美希も大好きなのっ!…ね、ミキの事どれくらい好き?」
美希も負けじとプロデューサーを抱きしめる。
「美希が、俺の事を想うより、ずっとだよ」
「じゃあミキはハニーが想うミキよりも、もっと好き♪これからも、ずーっとミキのそばにいてね?約束ね?」
「ああ、約束するよ」