一月半後

卒業検定を終えた元プロデューサーの元に既に終業している筈の主席と次席が駆け寄ってくる。

「どうだった?」

「バッチリかな」

「まぁ、君なら心配要らないでしょ」

「ありがと」

「進路は決まったのかい?」

「うーん…」

「決まってるんだろ?」
次席がそう言うと元プロデューサーは悔しそうに呟いた。

「くそっ、次席殿は騙せないか…」

「百年早い」

「まぁ大体予想はつくけどね」
主席が小さく笑う。

「嫌な感じだな…」

「提出済み?」

「うん」

「まぁそうだろうね」

「何がさ」

「いやね、さっき特別講師殿が君を呼んで来いってさ」

「どうしてそれを先に言わないのさっ!」
それを聞いた途端元プロデューサーは走り出した。

「急がしいったら無いね」
次席が笑う。

「前から決まってた癖に素直じゃないからお仕置きだ」
主席はそう呟きながら彼の背中を見送っていた。

翌日

ディアマインの面々が再び会議室に呼び出された。

「こんな事が前にもあった気がしますぅ」
雪歩はそう言いながらやよいと共に伊織の顔を見つめる。

「何よ!私は何も言ってないわよ、今回は」
伊織が不満そうに腕を組んだ。

「確かに伊織ちゃん、ここ最近は言ってなかったけど…。その前の2ヶ月間は…」

「うぅ…それが今になって来たとか…」

「うるさいわねぇ、知らないわよそんなの」

「はいはい、そろそろいらっしゃるから皆静かにしようね」
居合わせた小鳥がみんなをなだめると会議室のドアが軽くノックされた。

「どうぞー」
カチャリと音を立ててドアが開けられる。

律子のプロデューサーがグラスチェーンを揺らしながら会議室に足を踏み入れた。

そしてその後に続く人影にやよいと雪歩は驚いて顔を見合わせた。

ただ一人、伊織だけはクスッと小さく微笑んだ。

「やぁ」
と言う挨拶と共に訪れた懐かしい光景に伊織の涙腺が軽く震えた。

「本人たっての希望により…って挨拶は必要ない、か」
両方の手をやよいと雪歩にブンブン振り回されているプロデューサーを見て律子のプロデューサーは小さく笑った。

「そのようですね」
小鳥も微笑ましい光景にクスリと笑った。

「遅かったじゃない!」
伊織が声を上げた。

「ごめん、色々考えてたからさ」
伊織の顔を見てプロデューサーは目を細めた。

伊織はプロデューサーに向かって勢い良く飛びついた。

倒れない様に踏ん張るプロデューサーに顔を近づけ満面の笑みを浮かべた。

「これからビシビシ鍛えてやるんだから!ちゃんと私を可愛がりなさいよねっ!にひひっ」

「はいはい、頑張るよ」
いつもと変わらぬ様子でプロデューサーはそう答えた。

「じゃあ、これ預けておきますね」
律子のプロデューサーが小鳥にクリアファイルを一つ手渡した。

「はい、お預かりします」
小鳥が中身を確認する。

中には履歴書や養成所での思考パターン等のデータを取ったプロデューサーの資料が何枚か入っていた。

その中の一つ進路希望の用紙には「第一希望 水瀬 伊織のプロデューサー」 とだけ書かれていた。




それから1年

新たにプロデューサーが着任し数ヶ月後にディアマインは早々にSランクへの到達を果たした。

時にはオーディションでプロデューサーの奇策に予想もつかない様な大勝利をし

またある時には負けた原因を追究の為にプロデューサーとケンカしながらミーティングをしたり

文字通りのトップアイドルへ到達したディアマインはファン数を何処まで伸ばせるか

何処まで輝けるのかへの勝負に奔走していた。

またプロデューサーもディアマインを、伊織を活かす為の努力を惜しむ事は無かった。

そして迎えた 第2回 765ファン感謝祭

出場 ユニット

天海 春香の<プリズム>、如月 千早の<サウザンドホープ>、星井 美希の<スピーディスター>
秋月 律子、双海亜美、真美の<フィズ>、菊地 真の<フォルテ>、三浦 あずさの<ルージュ>
そして水瀬 伊織、萩原 雪歩、高槻 やよいの<ディア マイン>

オールSランク

少し遅れ気味に会場に入ったディアマインの面々

ドームを埋め尽くさんばかりの人の足音が地面を揺るがす程響いていた。

「相変わらず、すごいなぁ」
早足で控え室に向かいながらプロデューサーそう呟いた。

途中千早が前方から歩いてくる。

その後ろに千早のプロデューサーが歩いていた。

プロデューサーはニヤリと口端を上げた。

「おはようございます」

「おはようございます」
千早と軽く挨拶を交わすと言い合わせた様にプロデューサーは右手を高く上げた。

すれ違い様にパシンと勢い良く手が鳴らされる。

千早は驚いて後ろを振り返った。

「お知り合いですか?」

「ちょっとね」
千早のプロデューサーは嬉しそうに微笑みながら言った。

控え室近くの喫煙所で缶コーヒーを片手に小鳥と話しているあずさのプロデューサーが小鳥の話を聞きながら無言で軽く手を挙げる。

「おつかれ」
プロデューサーはそう一言言ってその手を鳴らしてそのまま控え室に入った。

「ん…?知り合いなの?」

「養成所のね」

控え室の中、早々に着替えを済ませたディアマイン

「さてと、今日は全員765プロのアイドル。そしてオールSランク」

「うぅ…流石にこれだけの人が集まってるとなると気楽にいけそうも無いですね…」
相変わらず本番前に弱い雪歩の言葉にプロデューサーは言った。

「気楽じゃなくていいよ、今日は」
いつかのようにやよいが頭を抱えた。

「全員765のアイドルだからって気楽にいける訳じゃないよ。全員同じ事務所の仲間だって事は―」

「全員ライバルって事よね」
伊織がプロデューサーの言葉を遮って言った。

「僕の事解ってきた?」

「少しはね、にひひっ」
伊織は嬉しそうに微笑んだ。

「司会はフィズ、ディアマインはトップバッター。だけど遅刻気味」

「誰の所為よ!」

「伊織が手間取ったんじゃ…」

「アンタが遅いからでしょ!」

「んーまあいいや、時間が無い」

「まったく…」

「ウォーミングアップを済ませたら声を掛けてね。舞台の袖にいるから」
そう言い残すとプロデューサーは控え室を後にした。

しばらくするとフィズの律子と亜美の声が会場に響いた。

それに応える様に声援が会場を揺らす。

「うぅぅぅ…わ、私やっぱり無理ですぅ…」

「雪歩さん、もうすぐ出番ですよ!がんばりましょー!」

「雪歩はいつもそうじゃない」

「でも、でもぉ」

「プロデューサーも待ってますからいきましょー!」
雪歩はやよいに連れられて伊織と共に舞台まで歩いていった。

舞台が近付くにつれくぐもっていた声援はリアルに耳に届き、それは今まで以上の迫力で雪歩を襲う。

「うぅぅぅぅぅぅぅ」

「遅かったね」
プロデューサーが伊織に声を掛ける。

「いつもの雪歩病よ」
呆れた様に伊織が言った。

「まぁこれだけのボリュームは滅多に無いしな。でももう出番も近いし…」
考えるプロデューサーにやよいが大きな瞳を輝かせながら袖をクイクイッと引っ張った。

「ん?…なるほどね」
意を察してプロデューサーが微笑む。

そして右手を顔の高さまで静かに挙げた。

「えっ…またそれやるの…」
伊織がちょっと嫌そうに声をあげた。

「さーっ!それじゃあトップバッター、ディアマインの入場です!」
律子の声が響くと重量感溢れる歓声が会場に響き渡った。

「時間が無いよ」
嬉しそうにプロデューサーが言う。

やよいと雪歩が勢い良く手を鳴らして駆けていった。

伊織も渋々歩き出す。

「フンッ!」
プロデューサーの前で立ち止まると伊織は不満そうに鼻を鳴らした。

それを見たプロデューサーはクスッと小さく微笑むと挙げていた右手を少し下げた。

「…なによ、少しは気が利くようになったじゃない」

「少し勉強したからね」

「行ってくるわね」
そう言うとプロデューサーの顔を見ることも無く伊織は歩き出した。

「いってらっしゃい」
プロデューサーが小さくそう答える。

そして右手がパンと小さく音を立てると伊織は眩い光の中に消えていった。

 SS寄り あとがき