<My Best Friend 前編>

私は 柏原 麻鈴。

家族は父と母、そして3つ下の弟が一人。

とは言っても本当の家族ではない。

私は本当は 香月 麻鈴(かづき まりん) と言う名だった。

香月の両親は私が5つか6つの時に事故で亡くなってしまったそうだ。

私は当時の記憶は殆ど無い。

奇跡的に私だけ助かったのだと誰かが教えてくれた。

引き取り先が見つからないので親戚である柏原の両親が渋々引き取ったと言うのも誰かの口から洩れ聞こえた事。

そんな人達だったから、そんな私に対する当たりも良いものでは無かった。

それでも私は家族を愛していたと思う。

ここまで育ててくれた恩は決して忘れない。

弟は私を本当のお姉ちゃんの様に慕ってくれていた。

それに忌み嫌われる理由はそれだけではない。

シャワーで火照った体にバスタオルを巻いて洗面台の大きな鏡を覗いた。

右の黒目勝ちな大きな瞳は私のお気に入りだ。

そして

前髪を上げると姿を現す異色の瞳。

銀とも薄い青とも取れるその瞳は瞳孔だけが黒く夜でも微かな光に反射してしまう色。

オッドアイ。

と格好良く言えばそれなりの形になりそうな物だったけど現実は違う。

そんな瞳を持つ私は幼い頃は差別の対象だった。

純粋 故に 残酷  無邪気 故に 狂気の子供。

蔑み、辱め、妬み、虐げ…

何度と無く魂を踏みにじられたろう。

何度と無く死ぬ事を望んだだろう。

発達途上の腕力、浅はかな知恵

そんな物に何度振り回され、何度殺されかけたろう。

数えていても仕方が無い。

気まぐれでやってきて、気まぐれで去っていくのだから。

何時しか私はその度に自分の体に傷を一つ刻む様になり

私は人の目が見れなくなっていた。

そんな私が中学3年生になった秋

それは不意に訪れた私のこれまでの人生で最も誇らしく嬉しい出来事が起きた。

いつもの様に制服に着替え、いつもの通り決められた授業を受けて帰る。

そして帰りがけに私はとある丘の頂上に構えた大木が見下ろす風景を見ながら歌の練習をしていた。

その日も冷たい秋風に私の歌が乗って飛んでいく様な気持ちのいい風が吹いていた。

一頻り歌の練習を終えた私はオレンジ色の夕日が徐々に落ちて行くのを眺めていた。

ここは気持ちいい。

いつでも風が吹いていて。

いつでも独りになれて。

こんなに素敵な場所で歌を歌えるだけでも幸せだと思っていた。

歌手になる夢は持ち合わせていたけど、当然今の両親がそれを許してくれるはずも無く。

私は商業高校への進学を決めていた。

無意味な進学コース受験生の為のプリントを紙飛行機にして飛ばしてみると意外なほど良く飛んだので驚いた。

スィーと気持ち良さそうに風に乗りながら飛行機が見えなくなったのを確認して鞄を持ち上げた時。

ギュッギュッと草を踏みしめる音が聞こえた。

自分の他にもここを知る人が居たのかと思い、名残惜しさを残しつつ私の頭は次の場所の散策に覆われていた。

丁度大木の隣で目が合った学生服の男性は先客が居た事に気付くと立ち止まって「あ…」と小さな声を上げる。

そのまま通り過ぎようと左に進路を取った時「ねぇ」と呼ぶ声がした。

反射的に見上げるとその彼は私の顔を見て小首を傾げている。

この時「なんて失礼な人だろう」と思ったのはお墓まで持っていくつもりだ。

「失礼します」と私が再び足を出そうとした時、今度は名前を呼ばれた。

「麻鈴…ちゃん?」

「えっ?」
なんと言えば良いのだろうこの時最初に感じたのは恐怖だった。

何故この人は私の事を知っているのかとそう何度も思った。

見上げて今度は私が彼を見つめてもその面持ちに覚えは無い。

「ちが…った?」
その時、彼は宛が外れたのを悔やむような恥ずかしむような顔をしていた。

「な、なんで私の名前…を?」
質問を質問で返した私の言葉を答えと取ったのか彼は薄く微笑むと「ごめん、ちょっといい?」と手を伸ばしてきた。

怖くなって反射的に後ずさりした私の退路はすぐに大木に塞がれてしまった。

徐々に近付く彼の手を私は避ける事が出来ずにただただ鞄を強く抱き締めていた。

「や…あ……ぁ」
あの時は本当に怖かった。

彼の近付く手を払えず耐える様にギュッと瞼を閉じるとその手は私の髪に優しく触れた。

彼はコンコルドのピンで留めた私の前髪をそっと梳くって苦笑混じりに言った。

「ごめん、目を閉じてたら見れないよ」
それでも頑なに目を瞑る私に彼は優しく言ってくれた。

「ね。麻鈴ちゃんの銀色の左目、見せて?」
「っ!?」
言葉にならなかった。

何故知っているのか?と言う事だけが私の頭を巡っていた。

なるべく隠そうとしたのは今に始まった事では無いのに、他校の生徒が私の名前と左目を知っている可能性なんて
それこそ天文学的な数字だ。

驚くあまり見開いてしまった私の目を見て彼は「やっぱり」と嬉しそうに微笑んだ。

「な、何故…それを?」
やっとそう口を開けた。

「覚えてないの無理は無いかな?もう10年も前の話だもんね」
と彼は私の前髪を下ろしてそう笑った。

彼の話しによれば名前は 対馬 悠也 と言って3つ年上で幼い頃に近所に住んでいて良く遊んでいたのだそうだ。

彼の中の私も凄く曖昧で亜麻色の髪と銀色の目、口元のホクロしか覚えていなかった。

当然、顔は変わってしまうので半信半疑で髪とホクロが一致したので声を掛けたのだと言う。

「ごめんなさい…私は、その…覚えてません」
そう謝辞を告げると彼は少し悲しそうな顔をした。

それは私が彼の事を覚えていなかったからと言うものではなかった。

「麻鈴ちゃんも色々あったからね…俺も今だからそれが分かる歳になったよ」
二人して沈黙してしまう。

悠也さんが口を開くのと沈みかけた太陽の陽を浴びてカラスが鳴くのとはほぼ同時だった。

「でも、麻鈴ちゃんは可愛くなったね。俺の好きだった目も綺麗で可愛いままだよ」
話しが唐突に変わるかと思いきやとてつもなく恥ずかしい事を悠也さんは言ってくれる。

「あ、その…悠也さんはいつも私と遊んでくれてたんですか?」
あまりにも照れ臭いやら恥ずかしいやらで私は話しを変えてやった。

「うーん、違和感が…昔みたいに兄さんて呼んでくれると違和感無いんだけど?」
と悠也さんは意地悪っぽく笑った。

「ごめんなさい、それは…無理です」
正直な感想だった。

「まぁそれもそうだよねぇ、初対面みたいなもんだしね」
悠也さんが優しく笑ってくれたので私もつられて笑みが零れてしまった。

それからしばらくの間、私達は言い合わせた訳でもなく丘で落ち合うようになっていた。

進学や受験の話し

昔の思い出話し

今の学校やファッションの話し

将来の夢

そんな事をまるで子供の頃に戻った様に私達はいつも話していた。

悠也さんは卒業したら東京に出てプロデューサーになるんだと言っていた。

アイドルや歌手を自分の手で有名にしていつかこっちに戻った時に自慢するんだと高らかに語ってくれた。

私は進学を決めたものの歌が好きでいつかそんな機会があればと思っている。

隠れた特技なのだけど私は声色を思い通りに幾つか変える事が出来るのでそれを武器に何か出来ないかなと。

悠也さんはそんな私の歌を初めて聴いた時に目を白黒させていた。

「すごいな…」
彼は拍手混じりに言ってくれた。

「ありがとうございます」
私は今まで人に聞かせる様な機会は全く無かったし、なるべく目立たない様にしていたので人に聞かせるのは
これが初めてだったと言える。

「麻鈴がデビューしたら怖いな…」
と本気な顔をして言うので面白かった。

「悠也さんが仕事にあぶれたら戻ってきて私のプロデューサーにしてあげてもいいですよ?」
そう悪戯っぽく笑うと彼は心底困ったような顔をしていた。

「えぇ、あぶれてからかぁ…うーん」

「でも、東京に行くんでしょ?」
そうそれもさほど遠くない未来に。

「うん、事務所への内定が一応決まってるからね。後は所属してる候補生と俺の実力次第かな」
ちょっと心配そうな顔をしてるので私はちょっとだけ笑顔で言ってあげた。

「悠也さんならきっと出来ますよ。大丈夫、私が保証します!」
私はトンと胸を叩いた。

「そうかな…」
やはり心配性な彼。

「そうですよ」
もう一度言ってあげる。

「そっか…うん、そうだよね」
やっと納得してくれた様に笑顔で頷いてくれた。

なんとも手のかかる兄さんだ。

少し苦笑して私は再び静かに彼の隣に腰を下ろした。

彼から見た私の遠くを見つめたその横顔は懐かしいような何処か寂しいような表情で、
瞳が濡れて見えたのは傾いた日が色づき、照らされていたからだと思う。


まだまだ春の兆しは薄く寒さの残る3月

私は悠也さんを見送りに駅のホームまで来ていた。

悠也さんたっての希望で私はこの日ばかりは前髪をアップにしてコンコルドを留めていた。

「麻鈴はやっぱりそっちのが可愛いと思うけど、それは俺の我が侭だな」
電車の中から彼は見下ろしながら私に言った。

ただでさえ身長差があるのに少し高い電車の床は私が殆ど真上を向かないと彼の顔が見れない。

「くふっ、全くその通りです。でも私は嬉しいです。一人でも私の素顔を見せられる人が出来て」
思わず笑みが零れてしまう。

「ははっ、それは光栄だ」
小さく笑んで彼は言った。

「頑張ってくださいね」
だから私も微笑んだ。

「麻鈴も元気でな」

「はい、お体には気をつけて」

「また会おうな!」

「また、いつかきっと」

ジリリリリッと電車のベルが鳴るとドアが鈍い音を立てて閉まる。

ガタッと音を立ててゆっくりと走り出す車窓から彼は私を見てくれていた。

私もそんな彼を真っ直ぐ見つめている。

お互いに涙を流す必要なんて無い。

きっとまた会えるのだから。

それならば送るべきも貰うべきもきっと唯一つ。

彼はにっと口端を上げて手を振った。

私は思い切り瞳を線にして八重歯が両方とも見えてしまうくらい大きく微笑んだ。

返される事の無い想い、そうと知っていて思い続けることの出来るひたむきさ。

その想いを胸に秘め決して面に出す事もなく、何も求めず幸せだと言い切ることの出来る強さ。

そんなものがきっと私の何処かにあるのだろう。

悠也さんと離れていても。

私は今、とても幸せだ。



17になった秋

それからと言うもの私は無事商業高校へ入学し変わらぬ毎日を送っていた。

変わらぬと言うのは語弊があるかも知れない。

少なくとも毎日は充実していた。

いつもただ何となく歌う事も充実感が無かったわけではないが今と前とでは雲泥の差があった。

人の為に歌う事の嬉しさ、楽しさ。

それが毎日の様に誰かに届いている様な気がしていた。

そしてそんな福音が私にも聴こえて来た様な気がした。

何気なしに捲っていた雑誌の広告は私の胸を躍らせた。

765プロと言う少し前までマイナー路線を辿っていた事務所が、最近逸材を発掘したらしく事業を拡大してきているとの内容だった。

そしてご多分に漏れず私の住む近所とは言えないがそう遠くない場所にも支所が出来るらしい。

765と言えば悠也さんが就職した先だ。

そう思うとなんだか自分の事の様に嬉しかった。

しかし、それはそれでこれはこれ。

私ははたと雑誌を閉じて町に出かける準備をした。

「いってきまーす」
靴を履き終えてそう言うと弟が「いってらっしゃーい」と居間から言ってくれたのを聞いて外に出る。

町と言っても都会のビル群が立ち並ぶ様な大きな町ではない。

自宅から1時間程電車に揺られて着いた先がここいらでは町と呼べるくらい開拓された所だった。

ここに来れば大抵の物は買う事が出来る。

もっともそんなに種類が多いわけでもないのだけれどそれでも少し変わった物も探せる。

CDや電化製品から始まってゴシックな服やアクセまで様々な店が並んでいた。

私がいつもここに来て見るのはアクセサリーショップだった。

シンプルで可愛らしい物も仰々しいシルバーアクセもここでならワンフロアで探す事が出来る。

お目当てはアーマーリングだ。

「いらっしゃい」
私が店の前まで行くと小柄なお姉さんがいつも出迎えてくれる。

小柄と言っても私よりかはいくらか背は高いのだけれど。

かすみさんと言うこのお姉さんは私の憧れでもあった。

私が好きなファッションをかすみさんは完璧に着こなしていてそれで一目惚れしてしまったのがきっかけだった。

今着ているガーゼライダースや黒いスカート付きのパンツもかすみさんのコピーだ。

「こんにちはっ」
軽く挨拶を済ませて私は店内に足を踏み入れた。

「麻鈴ちゃん、今日入ったわよ」
かすみさんがそう言ってウインクをした。

「ほんとですか!?」
嬉々とした声を上げるとかすみさんがカウンターの下から小さな箱を取り出して見せてくれた。

「これよね?」
小箱を受け取って開けて見ると少しくすんだ銀色のアーマーリングが横たわっていた。

「やっと揃った!」
そう声を上げたのはこれが私の最後の指にはまる最後のアーマーリングだったからだ。

待った甲斐があった。

予想通りのいい色をしていた。

お金を払ってかすみさんからお釣りを受け取ると私はすぐにそれを右手の薬指にはめた。

かすみさんも右手の中指と薬指にはめてる憧れのヴィヴィアンのアーマーリング。

私は左と右の薬指にはめる事に決めていたのだった。

薬指はとても大切な指だから。

「あーぁ、最後の指が埋まっちゃった。麻鈴ちゃんの顔も見れなくなっちゃうのかぁ」
と遠くを見てやがて意地悪そうな笑みを浮かべてかすみさんは言った。

「いえ、また来ますよっ!ブレスレットとかも良いのがあったら教えてください」
私がそう言って微笑むとかすみさんは少し苦笑いを漏らしていた。

店を後にする時、かすみさんがいつもの様に手を振ってくれる。

そんなかすみさんの手首に巻かれた細いワイヤーみたいなブレスレットも密かに私は狙っていたのだが
かすみさんの着用してる物はどれも高い…。

服も今日買ったリングもどれも数万と掛かるのだから一高校生には数ヶ月、いや1年に一つ買えれば良い方かも知れない。

その代わりと言ってはなんだが他の指のリングはどれも三千円するかしないかだ。

私は喜び勇んで予算をそこで使い果たしてしまったので少しウィンドウショッピングをして電車に乗った。

いつもの風景に戻ればまず行き着く所は一つしかない。

ここはいつ来ても変わらない風が出迎えてくれる。

変わるのは色づきだけ。

春は新緑が芽吹き、夏は緑が日に輝き、秋は大木が茶色い葉を落とし、冬は切々と降る雪が白に染める。

昨日と今日の区別は無く、明日と明後日の区別も無い。

徐々に色づきが変わる時だけそれが分かる。

声を高らかに歌っても誰にも咎められず、誰にも聞こえず。

ただ自分だけがそこに存在している様な自由。

歌って少し疲弊した喉を潤して、夕日を眺めて帰る。

自分は歌手になりたいと思いながら地味な今を満喫している自分に矛盾を感じつつもそれはまた別の事の様な気がした。

切迫されない毎日と言うのは、余裕があると言う事はきっと何もかも充実してしまうのではないだろうか?

そんな自分なりの哲学染みた考えを首を振って振り払うとまた明日も来るであろう丘を後にした。

家の前に着いた時、奇妙な感覚に襲われた。

先程まで涼やかな風に形無く揺られていた空気が濡れた様に重い。

のしかかる様な重たい雰囲気が家を、私を取り囲んでいた。

そして異変に気付いたのは直感でもなんでもなく部屋の電気が一つも点いていなかったから。

まるで他人の家に忍び込む様にそろりとドアに手を掛けると鍵の掛かっていないドアは簡単に軋みを上げながらゆっくりと開いた。

「ただいま…」
いつもなら昼白色の蛍光灯が照らされている廊下は今は何もない。

パチリとスイッチを押すと2,3度瞬いていつもの明かりを取り戻した。

「誰もいない…の?」
気になって声を掛けても誰も返事をしてくれない。

振り返って玄関を見れば何時もの様に乱雑に脱ぎ捨てられた靴が置いてあった。

「お義父さん?お義母さん?」
もう一度呼びかけても返事はない。

居間のドアを開ければ何時も誰か居るのだけれど…

「お義母さ―」
その先は何も言えなかった。

目の前に広がる光景は日常からは考えらない程、異形で言葉なんて出る筈もなかった。

居間は真っ赤に染まり

むせ返る様な鉄の匂いが充満していて

その中に転がっている見慣れた人達

だったであろうもの

服を血に染め横たわる累々はもう動く事はないと把握が出来た。

なんと言えば良いだろう。

私の貧弱な語彙で言うなら圧巻だった。

既視感が脳裏をちらつく。

絶え間ない液体の滴る音。

一面を赤で覆われた部屋は秋だと言うのに蒸す様な暑さだった。

血って思っていたより温かいのだなとぼんやり思った。

それなのに何故、一滴も汗が出ないのだろう

悲鳴も出ない

涙も出ない

駆け寄る事も出来ない

ただその時思ったのは

またか、と…

何も気に掛けてくれない義理の父

弟以外に関心の無い義理の母

14になってもいつも五月蝿い位、お姉ちゃん子の弟

思い出がサラサラと砂の様に崩れていく。

家族だったのに

また独りになってしまうのかと

そんな事を思っていたらフラフラと無意識が足を動かしていた。

浴槽に張ってある湯船が用意されているから後はそこにある剃刀が線を引けばよい。

つっと小さな冷たく熱い痛みが走る。

後は湯船が何とかしてくれるだろう。

どくんどくんと血液を体中に巡らす為に心臓が働いている。

止まる事を許されない血液が亀裂を塞いで軌道を戻そうと必死に巡っている。

血小板は固まる事を許されていないとも知らずに…。

「くふふっ、矛盾だらけだ人間て…」
生きるから死にたいのか、死にたいから生きるのか

もう分からなくなってきた。

「悠也さん、ごめんなさい。もう…会えない、ね」
頬を涙が伝う感覚は分からなかったのに、自分が泣いていたんだという事は朦朧とする意識の中でもハッキリと伝わっていた。


麻鈴が目を覚ましたのは病院の中だった。

のぺっとした天井と中途半端にぶら下げられた蛍光灯が覚ましたての目に飛び込んできた。

ピッ ピッ とリズムを刻む音がする。

体がすごく重い。

口には変なマスク、腕には変なチューブ、チューブの先には紅い液体の入ったパックが吊るされていた。

ぼんやりとした意識の中でなんでこんなに眩しいのかなって思ったら麻鈴が両方の目で見てるからだった。

麻鈴の左目は見せちゃいけないのに…

皆が怖い顔で見るから

皆が珍しそうに見るから

皆が気持ち悪そうに見るから

だから隠さなきゃ

そう思って左腕を持ち上げようとしても上手く持ち上がらない。

(麻鈴の腕ってこんなに重かったっけかな?)
と思いながら頑張ってみると少しずつ思う通りになってるような気がした。

頑張って大好きな色の麻鈴の前髪を下ろす。

やっとの思いで左目の視界が遮られた。

麻鈴はやっと安心して寝る事が出来る。

そう思ったら何だか隣で麻鈴の事を呼ぶ声がした。

聞いた事がある、懐かしい声だった。

麻鈴はその声を良く知ってる。

麻鈴が大好きな人だ。

右目で探してるとその人は麻鈴の前に顔を見せてくれた。

「麻鈴!麻鈴!気がついたか!?」
凄い心配してる顔だ。

何かが麻鈴のおでこに振ってきたから思わず目を瞑ってしまう。

暖かい。

そしてまた瞼を開けたらその人は泣いていた。

目からポロポロ涙を零して、子供みたいに。

でも麻鈴は何で泣いているのか分からなかったから声を聞いて最初に思った事を言ってあげた。

もちろん、笑って

「おかえり♪兄さん♪」

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